第4章 皆で笑う為に④

「………。」

「……………。」

「…。」


 いつもの定位置で寝ていると、不意に話声が聞こえてきた。


(何じゃ?)


 誰かが話している、1人はタクミで間違いない筈じゃ。もう1人は誰じゃ?

 潜伏の能力を使い静かに近づく。


「お願いです、このままでは殺されてしまう。」

「そう言いましてもねぇ、魔族の私に、対価無しに要求するのはねぇ、間違いって奴ですよ。」

「だから言ってるだろ。成功すれば、対価は後で支払う。その為にも、まずはあのドラゴンを拘束する必要が有るんだ。」


 タクミは、何を言っておるのじゃ。対価?拘束?きっと聞き間違いじゃ、まだ寝惚けているようじゃな。


「とりあえず頼んだぞ。」

「っち、わかりましよ。」


 そうして別れる2人、そうじゃ、きっと昇格についての話じゃ。そうに決まっておる、あやつは頑張っておったじゃないか。

 そう自分に言い聞かせ、逃げた。信じたくなかった、タクミがわらわを拘束しようとしている事を。

 その日を境に、タクミは頻繁にあの者と出会う事が増えた、それもわらわが寝ている時間に。




「タクミよ。最近、夜中に何をしておるのじゃ?」

「そうしたんだい、急に?」

「いや、なんじゃ。寝惚けておったのか、おぬしが誰かと話しているのを見ての。」

「きっと夢でも見ていたんだよ。」

「うむ、そうかのう。」

「そうだよ、だから気にしなくても平気だよ。」


 嘘じゃった、いつもの様に笑って嘘をついてきおった。拘束する道具は出来たと、この前話っておったのを聞いていた。


「何故じゃ…。」

「ん?何か言ったかい?」

「何故、嘘をつくのじゃ!」

「いきなりどうした!」

「全て知っておる!おぬしが誰と話しておって、何をしようかも、全てじゃ!」

「ちっ!聞いていたのか!」

「わらわは、おぬしの事を信用しておった!なのにじゃ!なのに、何故じゃ!」


 怒りで、我を忘れ暴れた。尾を振り回し、羽で風を巻き起こし、腕でタクミを八つ裂きにしようとした。


「やはり、正体を表したな!アルバ、今だ!助けろ!」

「いつから私は貴方の相方になったのでしょうねぇ。」


 不意をつかれた。咄嗟に反応して、回避しようとしたが遅かった。既に足には枷が付けられていた。

 力が奪われていく、耐えれずにその場に崩れる様に倒れる。


「やった、やったぞ!これで、私は助かる!あとは、この首輪を付ければ完璧だ。はははは!」

「どうでも良いけど、対価を忘れないでねぇ。」

「当然だアルバ。さぁ、仕上げだ。」


 信じたくて、目を背けて居たのに裏切られた。

 目の前の人間が憎い。


 憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくい!!!!


「え?」


 警戒もせずに近づいてきたタクミは、わらわの攻撃をかわせず貫かれる。


「ゴブ……。え゛?な゛、な゛ぜ、う゛ごけ゛る゛……。」

「あはっ。あははははは!面白い!実に、面白い!」


 狂った様に笑う魔族、理解できないタクミ。


「し゛に゛た゛くな……い゛…。いや゛だ……。」

「いやぁ、面白いものを見せて貰いましたよ。最高ですよ貴方。」

「い゛やた゛……、い゛…や゛た゛…。」

「おや、汚い虫みたく這いずって、どっか行ってしまいました。まぁ、後で対価は勝手に回収しましょう。ところで貴女、貴女には感謝します。最高の劇を見る事が出来ました、ですので貴女には対価無しで、1ついい事を教えてあげましょう。」

「黙れ、魔族が…。」

「声を出す気力もないドラゴンに凄まれても迫力がねぇ、無いんですよ。まぁ、お聞きなさい。この足枷の外し方を教えてあげましょう。」

「!」

「反応しましたねぇ、えぇ、教えますよ。安心して下さい、今から言う事は全て事実です。」


 紳士服に身を包んだ魔族は、足枷の外し方を本当に教えてきた。


「最後に、これは自分で試しても意味が無いです、誰かに外して貰いなさい。良いですね。」

「……。」

「では、私は対価の回収をしたら、ここを去るとしましょう。」


 そう言い残し、暗闇に姿を消す。殺してやりたかったが、力が出なかった。


 そこから先は地獄じゃった。

 タクミから連絡無いと、別の調査団が来て見つかり、戦争の道具にされた。どこで手に入れたのか、あやつらはわらわを操る道具を持っていた、足枷も道具を使い無理矢理吐かされた。幾多の戦でボロボロになりいつしか名前まで付けられていた。そして忘れ去られた。



 そして、目の前に人間が降ってきた、ビーストの娘と一緒にじゃ。何事じゃと思いつい出てしまった。そしたらこやつは、困っているから助けろとぬかしてきおった。

 それならと思い、足枷を外させる事にした。自分で書いた石碑の場所を教え、足枷の解除を待った。予想外だったのは、石碑に書いた文字を読めた事じゃろう。

 色々と注文していおったが、やっと足枷を解除しよういう時、こやつも他と同じだと思い知らされた。合図を決めておったのじゃろう、掛声と共に首元におった娘が首輪を付にきおった。寸前の所で振り落とした。娘は池に落ちたようじゃが、目の前のこやつは動けずにいた。本気で殺す気で攻撃をしたが、娘の叫びでかわされた。じゃが、かすり傷を負わせた、こやつは諦めたのか自分の死を受け入れる様に目を閉じ、動かずにいた。受け入れたのならせめて苦しませず殺そうとしたのじゃが、邪魔が入った。

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