第4章 皆で笑う為に

…げ……。

タク……にげ……。

タクヤ、逃げて!


「つっ!」


戻ってきた。

腕が痛い。背中を強打して息が上手く出来ない。頭を打ったのか目がチカチカする。口の中は血の味がで最悪だ。


「タクヤ!早く逃げて!」


遠くでルミーネが、血だらけで倒れている。どうやら僕が意識を失っていた間、彼女は1人でアスタルテに立ち向かってたようだ。


「だあぁぁあ、まぁああ、れえぇええ!!」


アスタルテが羽を、思いっきり羽ばたかせる。


「きゃぁぁぁぁあ。」


その羽から生まれた風は、ルミーネを紙のように吹き飛ばした。ある程度の距離を飛び地面に落ちた。


「ルミーネ!」

「貴様!!やはり、生きておったのじゃな!!」


僕の叫びにアスタルテが反応する。


「あの小娘も殺すが、貴様の息の根を止める方が早そうじゃ。」


怒りの炎が宿った眼で僕を睨みながら近づいて来た。


「アスタルテ、全部間違っていた!僕も、君も!」

「この期に及んで命乞いじゃと!なんと恥さらしな!」

「違うんだ、聞いてくれ!」

「五月蝿い!」

「うわ!」


腕を地面に突き立て岩を投げ飛ばしてきた。寸前に横に転がり避ける。


「人間はいつもそうじゃ!人の話は聞かず、自分の都合を通そうとする!」

「それは……。」

「違うとは言わせんのじゃ!」


反論が出来ない。ついさっきまでの自分がそうしていたのだ。


「わらわが何をしたと言うのじゃ!何もしておらぬ!」

「……。」


心からの叫び。

鎖で繋がれ自由を奪われ、戦争の道具として使われるまでだ。それで人間の僕を信じろなんて、都合が良すぎる。


「だから殺した。最初の者はわらわから自由をゆっくりと奪っていって、最後には空へ飛ぶ自由も奪った!だから殺した!」

「そこから間違っていたんだ!」

「何が違うと言うのじゃ!全て、あやつ自身が自分の為に……」

「だから違うんだ!」


そもそもの原因はそこからだ。

あの日記には色々と書かれていた。その中で一番多かったのは……。


「君の言っている最初の人物は、日記にびっしりとある事を書いていた!」

「知らぬ!」

「それは、君と過ごした楽しかった時間についてだ!」

「知らぬ。」

「あの日記には、君と出会ってからの大切な時間の事しか書かれていなかった!」

「知らぬ…。」

「あの日記の所有者はいつか君と空を飛びたいと書いていた!」

「知らぬ……。」


そうだ、あの日記にはずっとアスタルテと過ごした事しか書いていなかった。

ただ、その当時はドラゴンに対して良い印象が無かったようだ。だからここでアスタルテを匿っていた。

アスタルテに真実を言えば悲しむ。そう思ったからこそ言える筈が無かった。それが結果として悲劇を生むとしても。


「あの日記の所有者だった者は、君に真実を伝えたかった。だが真実を知ったら君は悲しむ、悲しませたく無かった。だから言い出せなかった。」

「そんな筈は……ないのじゃ……。」

「君は楽しかった時間を忘れたのか?」

「それは……。」

「少しの勇気。それがお互いに無かったから、互いに疑い傷つけ合い命を奪う事になった。」

「……。」


アスタルテは思う所が有ったのか俯く。

しかし。


「だが、貴様等人間がしてきた事は忘れぬぞ!貴様等は、わらわを戦争の道具にした!!貴様はそれをしないと言えるのか!!信用出来るというのか!!!」

「僕は、戦争をする事は絶対に無い!」

「口先だけで信用出来ると思ったのか!」

「絶対にだ!」

「人間はそう言って、同じ過ちを繰り返して来たではないか!!今回は違う、だから信用しろって言って同じ事を繰り返して居るではないか!!」


その通りだと思う。

人間は同じ事を繰り返している。自分のいた元の世界でも戦争は無くならない。こっちに来て初めて会ったホワイトは言っていた、人間は自分を見ると攻撃してきたと。話せばいい奴なのに理解しようとせず、見た目で判断する。それは世界は違えどやっている事は同じだ。


だからこそ、悔しかった。

アスタルテに言われた事が、ホワイトの現状が、何も出来ない自分が。


「貴様等は何も学ばない!学ぼうとしない!恥を知れ!」

「……しい…。」

「何じゃ、何が……。」

「悔しいよ!恥ずかしいよ!!アスタルテが言った事は当たってる!!人間は争いを止めない!自分の私利私欲の為に争い続ける!!」

「……。」

「結局は自分の為、他人の幸福を踏みにじり蹂躙する!!あいつだって…。ホワイトだって、本当は自由に空を飛びたい筈だ!!なのに見た目で判断され、虐げられている!!」


言っていて、止まらなくなっていた。

感情が止まらない。溢れてくる。

怒りが、悲しみが、悔しさが、惨めさが、負の感情全てがぐちゃぐちゃになって口から言葉となって溢れる。

言い返していたアスタルテも、何も言わずただ聞いていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る