第3章 VSアスタルテ⑥
横穴から出た僕達はアスタルテの姿を探した。
ある程度暴れて落ち着いたのか、やけに静かだった。このまま大人しくなって寝ていて欲しいと思ったぐらいだ。
松明の炎に自分たちの影が洞窟の壁を揺らめいている。
いつでも動けるようにルミーネに乗る。重くないかと尋ねると、平気と言っているような顔でこちらを見てくる。そして、そのまま前を向き直りゆっくり歩き出す。
洞窟には1匹の足音のみが響く。
「しかし、さっきまでの暴れ方の後なのに静かすぎる。何か聞こえる?」
「………。」
黙って首を横に振るルミーネ。狼の耳でも何も聞こえないって事に血の気が引いた。
ドラゴン特有の唸り声も、息遣いも何も聞こえないって事はない筈。なのに何も聞こえない。それって…。
「ミツケタ。」
今、1番最高聞きたくない声が真後ろから聞こえた。
「「!?」」
不意の声に一瞬硬直する。しまった、最初っから気付くべきだった。
ドラゴンに何かしらの能力がある事に!
「走って!!」
「!」
「逃がすかあぁ!!」
僕の叫びを聞きルミーネは全速力でその場から離れる。そのすぐ背後をアスタルテの腕が薙ぎ払われ通過する。あと少し反応が遅かったらあの腕に殺されていた。
「おいおい、冗談きついぜ神様よぉ。本気であんたを恨むぜ。」
振り返るとアスタルテが飛んで追ってきていた。当然だ、飛竜は地を歩くより飛んだ方が早い。最初は距離が離れていたが徐々に縮まったくる。
ルミーネも必死に左右に曲がりながら逃げるが引き離せない。
「くそ!」
事前に準備していた油の入った瓶に紙を刺した簡易の火炎瓶に松明の火を付けアスタルテにめがけて投げる。
不意に飛んできた瓶に反射的に手が出たのか、空中で割れた瓶は油を撒き散らしながら引火。その場に大きな炎の花を咲かせる。
「小癪なぁぁぁあああ!」
目潰しになったらしく怯む。
その場に倒れ込むように落ち、目元を擦っている。
今がチャンスでは。どうやらルミーネも同じ事を考えていたのか指示を出す前に反転しアスタルテに向かって行く。
「ルミーネ!」
合図と共にルミーネは思いっきり高く跳躍した。そのまま勢いを殺さないように器用に前転しながら僕の襟を咥え投げ飛ばした。
(いける!)
首輪を懐から出しアスタルテの首に向かって飛んでいく。
あと少し。もう少しで届く。
ルミーネは先に着地し離れて見守っている。
「届けええぇぇぇぇえ!」
目の前まで来た。あとは首輪を付ければ終わる。
その安堵の感情が油断を生んだ。
「舐めるなぁァァ!!」
重い衝撃が右から襲う。
腕の骨が軋み、限界を迎え折れる。その勢いのまま投げ飛ばされる。そして壁に背中から叩きつけられる。
「ぐっ。が、あ……。」
意識が一瞬飛ぶ。目の前が暗くなる。口を切ったのか血の味がする。
「タクヤ!!」
遠くでルミーネの悲鳴が聞こえる。
身体を動かして逃げたいが、何も出来ない。
終わるのか。最後の最後まで恰好良く抗えずに。
ルミーネ…、君だけでも逃げて。
神様よぉ、その願いぐらいは叶えてくれよな。
そう願いながら意識が深い闇に落ちていった……。
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