第3章 VSアスタルテ⑤

 正直怖かった。

 初めて見たドラゴン。

 彼は先に見ていたからか、普通に接して居たが普通じゃないと思った。

 だってドラゴンよ、村でも見た事のある人はいないと思うわ。だから私は彼を引っ張り説明を求めた。そしたらどうだ、彼はしれっと説明をしてきた。

 私が気を失っている間にドラゴンと勝手に話を進め助ける約束をした事、そのドラゴンは実は敵かもしれない事。そのドラゴンに首輪を付けて制御する事にしたと言い出した。そして、その首輪を付けるのは君に頼みたいと。

 アホかと思った。

 ただ、断る事もしていいと言ってきた。

 私は考えたわ。他にいい方法がある筈と、でも恐怖で上手く思考が回らなかったみたい。彼が提案した作戦がいいと思ってしまった。

 結局作戦は失敗、私は池に投げ飛ばされた。

 でも彼はその場に動けなくなっていた。

 ドラゴンの腕が彼を襲うのを見て咄嗟とっさに叫んでいた。

 彼は初撃を回避したが風圧で飛ばされ転がって倒れた。

 池から出た私は怯えて居た。死にたくないと思ってしまった。

 当然だ、あんな化け物に適うはずが最初っからなかった。だから私は逃げようと狼の姿になった。

 私だけでも逃げよう、彼には行き倒れの時の恩はあったけどそれはもう返した。

 そう自分の中で正当化していた。

 彼には悪いけど頑張って逃げてと思った。だから、もう1度彼の方を見たわ。

 罪悪感を消すために……。

 そしたらどうだ、彼は生き残る事を諦めたかのように目を瞑って居るではないか。

 諦めている彼の姿に私は無性に腹が立った。

 どうして生きようと最後まで足掻かないのかと。何故諦めているのかと。

 気づいた時には身体が勝手に動いていた。彼の襟を咥えその場から距離を取る。そして思いっきり壁に投げ飛ばした。

 狼の姿を止め彼の胸ぐらを掴み感情をぶつけた。胸の奥から溢れ出す感情全て。自分が泣いている事に気づかな程に。

 そんな私を見て彼は戸惑っていた様子だったが、自分が間違っていたと思ったのだろう。彼の目に光が戻る。何かを決意した目つきに変わる。

 場所を移し彼はもう1度首輪を付ける事を試すと言った。それも正面衝突で。作戦や小細工なんて無いただの特攻をすると。

 笑ったわ。盛大に笑った。

 彼の作戦が単純だからではなく、それが今までで1番最高の作戦と思ってしまった私にだ。

 失敗すれば多分次は無い。その恐怖に心が負けそうで足が震えた。

 彼がふと、笑い出した。

 最初は喧嘩していたのに今では普通に会話している事が可笑しいと。

 それもそうだと思ったら可笑しくて笑えた。

 すると足の震えは落ち着いていた。

 私は思った、彼となら。彼とならこの状態を脱出出来ると。

 最初の作戦は1人だったけど、この作戦は1人じゃない。だから怖くない。

 初めて私は人間に心を許しても良いと思った。彼にならこの身を任せても大丈夫だと。

 だから怖くない。今の私はなんでも出来る気がする。

 行こう。また彼と笑って話が出来るように、今を生き抜く為に。

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