第3章 VSアスタルテ④

 物音立てずなんとか石碑までたどり着いた。

 その間ずっとアスタルテの怒りの叫びが聞こえてた。

 絶対殺す、出てこい意気地無しめ、貴様らなんぞわらわの餌にさえしてやるものかなどなど。

 怖ーよと思いながらも壁伝いに歩いた。

 そして。


「あった。ここに入って。」


 横穴にルミーネを入れてその後ろをついて行く。

 広い空間に出て始めに松明に火を付ける。


「もう1度首輪を付けるのを試してみる。」

「どうやって付けるの。あそこまで暴れていたら流石に難しいわよ。」

「それなんだが、ルミーネ。君は変態能力を持っているんだね。」

「誰が変態ですって!」

「そっちの変態じゃないよ!変身する方の変態だよ!」

「なんだ、驚かさないでよ。ええ、出来るわよ。動物形態と、今の半人半獣のビースト形態。あとは…。」


 そう言うと彼女の姿が変わっていく。

 そして、そこには1人の女性が立っていた。

 腰まで長い白銀の髪。

 頭部には彼女の特徴の狼の耳。

 腰には髪と同じ白銀の尻尾。

 整った顔は大人の雰囲気が出ているが幼さが何処か残ってる印象を受ける。

 すらっと細い白い体。


「あんましジロジロ見んな、食うぞ。」

「あ、ご、ごめん。」

「正直この人型ひとがたにはなりたくはないんだよ。」

「なんで?綺麗なのに。」

「ば、ばか!面と向かってそんな事言うな。恥ずかしいだろ。」


 そう言って元のビースト状態に戻る。


「私は人間と人狼族のハーフなの。だから狼にも人間にもなれるの。人間の姿になると男共がさっきのあなたみたいにジロジロ見てくるから嫌いなのだけど。」

「それは、悪い事をしたね。ごめん。」

「別に怒ってないからいいわよ。」


 恥ずかしそうに俯いている。


「それでこれがどうしたの?」

「それなんだけど。狼の姿になって僕を乗せれないかな?」

「出来ると思うけどまさか……。」

「そのまさか、機動性は君の狼の状態がベストだと思う。それでアスタルテを翻弄ほんろうする。」

「正面衝突しようって言うの。」

「うん。」

「呆れた。まさかここまで来て作戦は正面衝突ねぇ。」

「小細工をしている余裕があるとは思えない。だから速さで何とかできれば一瞬の隙をついて首輪を付けれると思うのだが、ルミーネの意見も聞いてみたい。どうだろうか?」

「ふ……」

「ふ?」

「ふふ、ふふふ。」

「?」

「あははははは!」


 うお!?びっくりした。


「いいわよ、単純でわかりやすいじゃない。嫌いじゃないわ。」

「そ、そう。ならよかった。」


 初めて会った時は穢って罵ってたのに、女の人の心情は分からない。


「ある程度近づいたら僕を投げ飛ばして欲しい。そこから先は僕がなんとかする。」

「分かったわ。それとこれ。」


 彼女は先程渡した首輪と片手剣を差し出してきた。


「これはタクヤが持っていて。私には不要だしね。」

「わかった。投げた後はどこかに隠れていて欲しい。それに危ないと思ったら途中で逃げて。」

「任せなさい。速さであのドラゴンに負けるつもりはないから。」


 頼もしい事を言って胸を張るが、足は震えていた。


(最悪彼女だけでも逃がして僕1人ででもなんとかするしか……。)


 そんな事を考えてふと笑いが込み上げてきた。


「ふふっ。」

「何笑ってるのよ。頭でも打っておかしくなった?」

「あ、いや違うんだ。初めて会った時は罵ってたのに今じゃこうして普通に話をしている事が可笑しくて。」

「それもそうね。ふふっ、確かに可笑しいわね。」

「あはは。」

「ふふふ。」


 2人で顔を見合わせ笑った。

 そうだ、こうして笑って居れるようにを頑張って乗り切らないと。

 そう思うと自然と足の震えが止まっていた。


「行こうか。」

「そうね。」


 頷きあいアスタルテが居る空間へ戻る。

 行こう、もう1度笑って居られるようになる為に。

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