第3章 VSアスタルテ③

 ドアを出る前にルミーネに首輪と、何かあったら使うよう言って片手剣を渡した。

 そしてもう1度段取りを確認し外に出る。


「落ち着いたからもう平気だよ。」

「そ、そうかえ。物凄い速さで小屋に戻ったから驚いたのじゃ。」

「ははは…。」


 僕の目にはバッチリ見えてましたよ。


「なら早う取ってくりゃれ。もう待てん。」

「その前に。」

「なんじゃ。まだあるのかえ。」

「こいつを先に乗せてやってくれ。解除したら直ぐに脱出出来るように準備はしておきたい。」

「う、うむ。」


 渋々了承したように見えたがルミーネを背中に載せる。

 ルミーネはそのまま首まで登り合図を送ってくる。


「いいよー。」

「了解だ。じゃあ待たせたねアスタルテ。解除するよ。」

「早う、早う。」


 ……落ち着け。

 別に怪しいところはなかった。

 声も震えていないと思う。

 ゆっくりと足枷に近づく。

 あと3歩。

 2歩。

 1歩。


「それじゃ解除するねー。」


 それが合図だった。

 首に居たルミーネは素早く首輪を懐から取り出すと金具が付いている方を思いっきり外へ投げ出す。

 金具の重さと遠心力を使いアスタルテの首に首輪を巻付けるようだ。


「!?」


 アスタルテは何が起きたが解らないと言った顔で固まるが、直ぐに何かされている事を理解する。


「貴様らもかあぁぁぁぁああああ!!!」


 そして、怒りの篭った怒号が洞窟全体に響く。

 洞窟が揺れる。

 上からは岩が落ちてくる。


「つっ!」

「ひゃい!!」


 足元に居た僕が竦む程の怒号だ、それ以上に近いルミーネは驚きと耳へのダメージで怯んだ様だ。

 その一瞬。

 彼女が怯んだ一瞬の隙をアスタルテは見逃さなかった。

 勢いよく首を横に振り乗っていたルミーネを投げ飛ばす。


「きゃあああぁぁぁぁぁ。」


 投げ飛ばされた彼女は悲鳴を上げながら池に落ちた。


「貴様ら!!わらわを騙し、また戦の道具にしに来たのだな!!ふざけるのも大概にしろ!!わらわは貴様らのおもちゃでは無い!!殺してやる。食い殺してやる!!はらわたをぶちまけて死ね!頭を砕かれて死ね!!四肢を引きちぎられてしねぇぇぇぇ!!!」


 失敗した。

 アスタルテは怒りで手をつけれない状態だ。

 ルミーネは無事の様だがこれでは首輪の話どこではない。

 逃げなければ。

 目の前の狂い狂った竜に、深紅の竜に殺される!


「まずは貴様からだぁ!」


 僕の胴体以上ある大きな腕が振り下ろされる。


「避けて!」


 ルミーネの叫びで身体が反射的に横に飛び逃げる。

 そのすぐ横をかすめ通る。


「痛ったっ!」


 爪が肩を引っ掻く。

 傷は浅いが恐怖で身体を支配するには充分だった。

 風圧で飛ばされ転がり倒れる。

 立てない。

 足が動かない。

 力が入らない。


「次は逃がさない。」


 真っ赤に燃える様な瞳で睨みながらアスタルテは近づいてくる。

 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。

 そう思っても先程の恐怖で足が震える、上手く力が入らず立てない。

 地響きを立てながら迫っていた深紅の竜はいつの間にか目の前に立っていた。


「これで終わりだぁ!」


 再度あの太い腕が振り下ろされる。


(もう駄目だ!)


 諦めて目を瞑った。

 あの腕に僕は潰され無惨な姿に変わり果てる。

 そう思い覚悟を決める。

 せめて痛く無ければいいなと思いながら。


 …

 ……

 ………

 いつまで経っても痛みが来ない。

 それどころが何かに引きずられてる感覚がある。

 恐る恐る目を開けるとそこには、僕の襟を咥えながら4本足で走る大きな狼の姿があった。

 ある程度の距離を引きづられて居ると、思いっきり壁に投げられた。


「何諦めてるのよ!」


 ルミーネだった。

 元の大きさに戻り二本足で近づいてきて胸ぐらを掴まれる。


「なんで最後まで足掻かないのよ!私を助けてくれるんじゃなかったの!」

「でも、失敗した……。」

「だから何!諦めて死ぬの!?死にたいなら今私しが喉を食いちぎってやる!!」

「死にたくないさ!でも手段が無いんだ!!」

「考えなさいよ!あなたは生きてる、なら最後までみっともなく足掻いて考えて生きなさいよ!」

「つっ!!」


 彼女は泣いていた。

 彼女も恐怖で怖い筈だ。

 さっさと出口を探して逃げたい筈だ。

 だが僕を見捨てず助けた。

 あの腕が振り下ろされる前に僕を助けて逃げてきた。


「ごめん……。」

「謝るなら生きようとして。もう目の前で誰かを失うのはいや……。」

「……本当にごめん。」

「…私も言いすぎたわ。ごめんなさい。」


 ルミーネの過去に何かあったかは知らない。

 でも僕を助けてくれた彼女を泣かせてはいけないと思った。

 そう決意し奥に目を向ける。

 奥の方でアスタルテが僕達を探している。

 どうやら見失った様だ。


「考える時間が欲しいこっちに来て。」

「うん。」


 僕は彼女を連れて、石碑の横に見つけたあの空間に微かに入ってきている月明かりだけを頼りに向かった。

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