第2章 新しい出会い⑤
「騒がしいと思って見に来てみたらなんじゃお主らは。」
深紅のドラゴンは面倒くさそうに話してきた。
「え、あ。」
「ハッキリ喋らんか。男じゃろう。」
「す、すみません。」
「で、お主らはなんじゃ?盗賊か?もしや、またわらわを道具として戦争に連れ出しに来たのかえ。戦はもう沢山じゃ。帰れ。」
ドラゴンをよく見ると傷だらけだった。
「あ、いえ。違います。僕達は迷い込んだだけと言いますか落ちてきたと言いますか。」
「なんじゃハッキリせんのぅ。」
「じゃあハッキリ言います。助けて下さい。」
「はい?」
「成程のう。」
事情を話、理解をしてもらった。
「助けてやらんことも無いが……どうじゃ、取引をしようじゃないか。」
「取り引き?」
「簡単な事じゃ。わらわはお主らを助ける。お主らはわらわの自由を奪ってるこの忌々しい枷を取る。どうじゃ、簡単じゃろ?」
「んー……。わかったやってみる。」
「理解が早くて助かるのう。」
「ただその前に。」
「なんじゃ?」
「燃える物とか無いかな?このままじゃ彼女、風邪引いちゃうから。」
「優しい奴じゃのう。」
「当たり前のことをしているだけだよ。」
「確か奥に小屋があったと思うのう。案内をしてやろう。」
「ありがとう。」
それを聞いて寝ている彼女を背負う。
ドラゴンに案内された先には小さい小屋があった。
扉を開け中を見ると、
ベットに寝かせ暖炉に火付け石で薪に火をつける。
これで風邪は引かないだろう。
正直服を脱がして乾かしたかったが、相手が女性である以上男の僕がやっては色々とまずい。
思考を切り替え、何か使えそうな物が無いか探すと松明が2本と小型の片手剣があった。
2本ある松明の内、1本に火をつけもう1本は腰に刺しておく。
護身用に片手剣も持っていく。
「待たせたね。」
外に出て小屋から離れてた所にいるドラゴンにそう言う。
「で、何か手掛かりとかは有るの?」
「うむ、この先に石碑が有っての。そこに見慣れぬ文字が書いてあるのじゃ。多分それがこの枷を外す手掛かりじゃと思うのじゃ。」
ドラゴンはこの奥だと尻尾で方向を指す。
「わらわはここで待っておる。じゃからあの娘の事は心配せんで大丈夫じゃ。」
「分かった。えーと……。」
「アスタルテ。ニルバーニャ・アスタルテじゃ。戦いに連れ出していた連中がそう呼んでおった。」
「分かったよアスタルテ。僕は結城 卓也だよ。」
「タクヤじゃな。」
アスタルテ……。
ドラゴンの名前は偶然なのかまたは嫌味なのか、元いた世界の戦の女神の名が使われていた。
多分偶然だと思うがそれでも趣味が悪いと思ってしまった。
アスタルテが指した方へ真っ直ぐに行くと確かに石碑はあった。
そして、そこに書かれていた文字を見てやはりと思った。
(日本語……。)
馴染み深い文字を久々に見たような感覚になった。
しかし何故、異世界に自分が居た世界の文字が使われているのか。
分からない事が多く、整理が出来ない。
(アスタルテに色々聞きてみたいが、まずは解放しないと。)
そう思い石碑に書かれている文を読む。
我は深き紅の竜をアスタルテと名付けた
この竜を従わせるのなら、竜に触れ名を呼べ
そして我に従えと唱えろ
足枷を外すのならばこう唱えろ
我、汝の解放を望むと
意外に簡単な方法なんだなと思い戻ろうとした。
だが途中で止まる。
簡単過ぎではないだろうか。
それに違和感を覚える。
もう1度石碑を見る。
今度は読むではなく観察に近い。
書かれている文字を注意深く見る。
(これ、掘られて書かれていると思ったが爪で引っかかれて書かれている。それに所々文字が若干違う。)
心の端に嫌な感覚を覚える。
もしかして僕は大きな間違いを犯そうとしているのか。
そう思い周囲を探索する。
(……横穴?)
石碑から離れた場所に人が這って進めるくらいの横穴を見つけた。
松明の火を消さないように注意しながらその穴に入る。
暫く進むと開けた場所に出た。
(なんだここ。)
そこには机や本棚、いろんな形の瓶が転がっていたりと人が生活をしていたような痕跡があった。
ふと机の上に置いてあった物に目がいった。
(日記?)
ここで生活をしていた人物の物なのか手に取って目を通した。
そこにはここでの生活や活動内容が記入されていた。
それも日本語で。
(ここに居た人はいったい……。)
疑問に思いながらも読み進める。
だがあるページでその手が止まった。
いや、ある1文にと言った方がいいか。
そこには
『深紅のドラゴンを信じるな』
と、書いてあった……。
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