第1章 人生初の異世界③

「流石に霧が無い状態だとここまでが限界だな。こっからは歩いて行けるだろ。」

「ありがとう、ホワイト。」

「なぁに、俺様も久々に外を見れたから気にすんな。」


 ゆっくりと空を飛んでいた為、街の近くまで来た時にはもう夕日が沈み辺りは暗闇に溶け込んでいた。

 街まで飛んでいくと騒ぎになるからと、近くの草原で降りた。


「街までは目と鼻の先や、歩いてもそんなに時間はかからんだろう。」

「そうだね。」

「んじゃぁ、俺様は行くわ。寂しいがここでお別れや。」

「うん……。」

「そう気を落とすな。今生こんじょうの別れじゃぁあるまいし。生きとったらまた会える。それまで元気に過ごしていたらええねん。」

「うん、また会える時まで元気に過すよ。それまでの別れだね。」

「お、元気が出てきたみたいやな。なら安心だ。」

「色々とありがとう。」


 その言葉を聞くとバサッ、バサッと羽を羽ばたかせ始めた。


「じゃぁ、本当に俺様は行くわ。」

「うん、またね。」


 大きく手を振り飛び去る竜の背中を見送る。




か……。嬉しい事言ってくれるじゃねか。」


 空を飛ぶ竜の口が嬉しそうに歪み照れてる姿は暗闇と霧で、夜空に輝く星達もみえなかった。







 ホワイトと別れた後、街に向かって歩き出して数十分。

 やっと街の入口に着いた。

 入口には街の名前と思えるモノがこの世界の文字で書かれているが。


「うん、読めないよね。知ってた。」


 異世界あるあるでお馴染みの文字が読めない。


(まぁ、読めなくても今は問題ないでしょう。)


 そう思って特に気にせず街の中に入って行った、までは良かった……。






「詰んだ。」


 1時間後、暗い路地裏で木箱に腰をかけ頭を抱えて座っていた。


「嘘だろ。文字が読めないのはお約束だから良しとしよう。だが、言葉が通じないし何言ってるのか解らないとは思ってなかった。」


 そう、言葉が解らないのだ。

 異世界物では転生した先の言葉がわかるのは当たり前だと思っていた。

 でなければ物語は始まらないし、進みもしない。

 なのにだ。


「神さまは僕になんの怨みがあるのでしょうか?言葉が通じないのはイジメですか?」


 昨今の異世界物語事情は優れているのに、見習って欲しい。

 何処ぞの主人公は死んでもセーブポイントまで戻る力が有ったり、別の物語では自分ステータスがウィンドウ型で分かっちゃうのもある。

 それなのに、それなのに…。


「初期状態で難易がルナティックなんてきいてない。」


 状況は最悪だ。

 まずこの世界の言葉が解らない、それに文字も読めない。

 お金に関しては一文無しで住む所なし。

 おまけに空腹と眠気も襲ってくる始末。

 これで詰んだと思わない人が居たら是非に教えて頂きたい。

 この状況をどう打開するのかを。


「腹減ったなぁ……。」


 空腹さえなんとか成れば少しは良い考えが浮かぶのだがどうにもならない。

 浮かれていた、ドラゴンと話せて友達になれた事に。

 そうドラゴンと話せた事が……。


「なんでホワイトとは話が出来たんだ?」


 考えていたら、それが不思議に思った。

 何故、話が出来たのか。

 もしかしたら話が出来るのはドラゴンみたいな一部の特殊な存在だけではないのだろうか。

 この街に来てからいろんな種族に話しかけてみた。

 ヒューマン、獣人、ドワーフにエルフ、その他にも多数。

 その全ての反応は皆同じ、何を言っているのか解らない様な顔をして離れていく。

 しかし周りを見ると種族によって言語が違う訳ではないみたいだった。

 ヒューマンとドワーフ、獣人とエルフなど別の種族同士でも会話が成り立っていた。

 そうなるとこの世界は共通言語があると。


(んー、暫くの目標は文字を読み書き出来るようにする事からかな…。)


 最悪な状況でグダグダしていても何も変わるかけがない。

 そう思い今後どうするかの目標をたてる。

 それが決まれば次は今この瞬間をどうするかだが……。


(アイディアが浮かばない。お金は無いから宿で寝泊まりが出来ない。お腹を満たそうにもやっぱりお金が無いから無理。困ったなー。)


 何をするにもお金が無いと何も出来ない。

 明日の朝までどう乗り切るかも考えなければ行けない。


(前途多難ってこういう時に使うのかな、ハハハ。)


 諦めに近いため息を深く吐き今晩はどうするかを考える事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る