第1章 人生初の異世界②
ドスン…。
無慈悲にも地を揺らし僕の目の前に着地した生物はやはりと言うべきかドラゴンだった。
見た目は飛竜の容姿、純白と言っていい程白い鱗で己の身体を覆っている。頭から尾の先まですらっとしているが全長は4メートルを超える大きさだ。頭の中には白竜の二文字が浮かび、自分が今死に直面している事を忘れる程美しさがそのドラゴンにはあった。
目が逸らせない、体が動かない、逃げる事が出来ない、声が出ない、動けば殺される。
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない……!
まだ異世界に来てからまだ2時間ぐらいしか経って無いのにここで人生を終わらせたくない。
嫌だ、嫌だ。
動け、体が動けば逃げれる、足が動けば走れる、心臓がまだ動いているなら最後まで足掻いてくれよ。
そう願っても、どんなに心で自分の身体に命令しても蛇に睨まれた蛙が如く身体が動かない。
ふしゅぅぅぅぅぅぅ……。
白竜から息が大きく吐かれた。
そしてゆっくりとその大きな口を開け……
「珍しいなぁ、こんな霧の中に人が居るなんて!!」
びっくりするぐらい悠長に話かけてきた……。
「ガハハハ、俺様に食われると思ってビビって動けなくなっていたとは
「あは、あははは……。」
白竜…、ホワイトドラゴンは(自分からそう名乗った)、目の前で震えながら固まっていた僕に話かけ、固まっていた理由を聞き盛大に笑った。
(こっちは殺されると思ってたのに、このドラゴンめ!!)
心中で悪態をつきながらも表情に出さないよう
「しかし、異世界からやって来たか。しかも、その異世界には俺らドラゴンは存在しないと。それに、そのキカイ?スマホ?と言う物が
唯一ポケットに仕舞いっぱなしにして一緒に異世界に来たスマホを見せたら目を輝かせ食いついて来た。興味津々にスマホを器用に持ちいじる姿は、先程まで怯えてたのが馬鹿らしくなるくらいに
「んで、霧が出て来て目的地だった街に着かず、焦っていた時にこの俺様が出てきたと…。いやぁ、スマン事したなぁ。勘弁してくれ。」
「正直、見知らぬ土地であんな大きな聞いた事のない咆哮を聞いて、あぁ死んだなかと思いましたよ。実際会ってみるとこんなにも友好的だったとは思いませんでした。」
「だからスマンって、この霧も自分の身を守る為の霧なんだよ。この世界の住人は、俺様が空を気持ちよく飛んでいたら、災いの元凶がって言って攻撃してくる野蛮人どもだ。まぁ、俺様が息を思いっきり吹きかけたら吹っ飛んで転がって逃げ惑って傑作だったがな。ガハハハ。」
「お、おぅ……。」
(多分、その人達もさっきみたいな自分と同じ気持ちだっただろうな。吹き飛ばした本人は笑い話にしているが、飛ばされた方は笑えないな…。)
この後も自慢話をあれこれ聞かされたが被害にあった方は笑えない事ばかり。
たまたま民家の上空を低空で通った時にその民家が消し飛んだり、飛ぶのに疲れたから
実に恐ろしい話しだ、そりゃあ災いの元や災害の原因など言われる筈だ。自分も同じ被害に会ったらその人達と同じ事を言ってただろう、現に霧の発生源が目の前に居て迷惑だと怒鳴ってやりたい気分だ。
先ほどの事もあるし……。
「で、お前さんはこの後街に向かうのかぁ?」
「そうですね、行く宛も無いので街で何か情報をと思ってます。出来れば仕事も欲しいですね。」
「……そうか。まぁ、頑張りや。困難は仰山待っていると思うがお前さんならなんとか出来そうやしな。」
「ありがとうございます。」
ホワイト(面倒いから途中からそう呼んでいた)は、そろそろ行くわと言わん感じの話の切り方をし翼を伸ばす。
しかし、その手には未だに僕のスマホが握られてた。
その姿を見て僕は。
「……そのスマホ気に入ったのなら差し上げます。どうせこの世界で使い道なんて時間の確認しか無いと思いますので。」
「ほんまかいな!しかし貰いっぱなしも悪いのぅ……。ちと待ってなぁ。」
そう言うと自分の鱗の中でも小さい鱗を1枚剥がして渡してきた。僕の
「お礼や、持っとき。」
「でも……。」
「気にすんなや。それは俺様と友情の証や。こんなにも久ぶりに楽しい話が出来たし、このスマホって言うのも貰った。これでお礼の一つもしないと純白の飛竜の名折れや、取っとき。」
「ホワイト……。」
格好いい所あんじゃんと思いながら心にぐっと来るモノを押し殺しホワイトを見る。
「さてと、街の近くまで送ってやるわ。捕まり。」
「ふぁあ!?」
そお言うとひょいと僕の身体を自分の背中に器用に乗せる。硬い鱗に覆われた背中は少し腰に悪いが、其処からの眺めは霧が無ければ素晴らしいものだと思う。
「残念だな……。」
「ん?何か言ったか?」
「あ、聞こえた?霧が無ければここから絶景が見えるのかなと思って。少し残念な気持ちが、ね。」
「……。」
素直な感想伝えるとホワイトは考える様に目を瞑り黙り込む。
そして何かを決意したのか顔を上げると。
「え!?」
目の前を覆っていた霧が一瞬で晴れた。
「ちょっ!!何してる!?」
「折角出来た人間の友が俺様の背中から見える景色をご所望だからな。絶景を見せてやる。」
「ッ……。」
ここまでしてくれる事に目頭が熱くなった。
いきなり異世界に飛ばされ右も左も解らない状況に強がっては居たが不安でいっぱいだった。そんな中初めて出来た知り合い、いや友に甘える事にした。
「しっかり捕まったか?んじゃぁ飛ぶでぇ。」
バサッ、バサッ、バサッと力強く羽ばたき身体を浮かせ始め、ゆっくりと高度を上げる。
そして……
「すごい……。」
霧の中でかなりの時間を話して居たのか日が地平線に沈みかけ辺り一面を紅く染めていた。目を覚ました森、歩いてきた草原にある道、目的地である街、まだ見ぬこの世界の果てを美しい茜色に。
僕を思ってか、久々の霧の外の風景を見る為かホワイトはゆっくりと街に向かって飛んだ。
その背中の上で僕は静かに涙を流した……。
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