異世界で過ごす僕の人生

ユウやん

プロローグ 異世界に来たみたいです!

第1章 人生初の異世界

 この世の中に神様が居るのなら、僕は一言こう言ってやりたい。

“なんて事をしてくれたんだ”と……。


 目を覚ました僕は、見知らぬ森の中で寝ていた。

 状況を理解しようにも、脳が現状に追いつけていない。完全に脳内はパニックをおこし身体は硬直。今の姿をほかの人が見たら何て言うか簡単に想像出来る自信がある。


 そんな状態がどれだけ続いたか。時間にして数分だろうが体感的には数十分、いや1時間以上に感じた。だが、呆けていても何も始まらない。何が起こったのかを整理しよう。

 落ち着いて思考を巡らせる為に、近くの幹に腰を下ろした。


(まずは、自分の記憶があるかの確認からするかな。)


 変な薬でも使われて、記憶障害にでもなっていたら何も出来ない。何よりここが、自分の記憶にある土地ならば頼りになるものはやはり記憶だ。


(自分の名前は結城ゆうき 卓也たくや、25歳。アルバイトをして生活していた……。)


 等々、色々と自分の事を挙げていく。



 ……記憶には問題なさそうだな。


(んー、分からん。さーっぱりだ。何故ここに居るのかも皆目検討もつかない。)


 周囲を見渡しても見た事の無い植物が生えているだけだった……。


「はあぁぁ、高い所から周辺を見てみるか。幸い、しっかりしている木が生えているのだから登れば見えるでしょ。」


 座っていた幹の持ち主の大木を見上げながら呟いた。

 木登りはこの歳に成っても運動の一環としてやっていたのが幸をそうした。手を掛けれる所を選びながら、あっという間に頂上へと到達した。そして辺りを見渡して言葉を失った。

 そして、神さまにもう1度この言葉を贈ろう。最初に言った怨みの篭った意味ではなく、感謝の意味を込めたこの言葉を。


 なんて事をしてくれたんだと……





 数十分後、ようやく森を抜け道に出た。


(やっぱり見間違いじゃなっかた。)


 木の頂上から見つけたのは舗装はされてはいないが人が通ってる痕跡の有る道、そして…。


「ドラゴン……。」


 ファンタジー界で王道のドラゴンが荷車を引いて走っている。背中に翼の生えたのではなく、トカゲの様な見た目の地竜だ。重たい荷車を力強く引く姿は勇ましく、ただ一言格好いいに尽きる。通り過ぎる地竜に見とれて居ると甘い果実の匂いが漂ってきた。


 ぐうぅぅぅ……。


(あっ、何にも食べていないからお腹が……)


 森の中で気づいてから何も口にしていない事をお腹の虫が知らせてくれた。


(匂いからしてりんごに近い食べ物なのかな?それに、木に登った時に街が見えた…。歩いて行ってみるか。)


 馬車……、この場合は竜車か。それが荷物を乗せて移動しているのを考慮すると、見えた街は少なくとも貿易が出来る程の大きさ。そこに行けば少なからず何かしら情報が手に入るはず。そう信じて竜車が進んで行った方向へ歩き出した。




「はぁ、はぁ、はぁ」


 意気揚々と歩いたのは良かった。うん、良かったけど着かない。あれから1時間も歩いたけどまだ着かない、街は見えるのだが近づく気配が無い、それどころか霧が出てきた。


(最悪だ、視界が悪くなって道から外れるのは勘弁してくれ。)


 霧で見通しが悪いだけではなく、道が分からなくなってしまったら、街に着くどころか生命の危機になるぞ。こうなるのなら歩かないで竜車に乗せて貰えば良かった、霧が出て来てからは竜車なんて見てないし困ったぞ。

 空腹と焦り、それと慣れない道を歩いて来た為の疲労で判断力が低下している気がする。いや、確実に低下している。いきなり異世界に飛ばされ困惑し、ドラゴンを見つけ歓喜し、慣れない道を歩いて疲労し、その歩いて来た道その先の進むべき道を霧で見失うかもしれない絶望……。

 言葉にして並べると人生でなかなか体験出来ない感情の起伏に心が疲れるに誰が責めれるのだろうか?


「ああぁぁぁ、クッソ!いつになったら街に着くんだよ!!」


 自暴自棄になりその場でイラつきを言葉にし声に出して感情を剥き出しにする。八つ当たりしようにも何も無い道、草原の中ただ声を出した。


(叫んだら少し落ち着いたかな。落ち着いて行動しないと、悪い方へと負の連鎖で駄目になる。とりあえずはこの道を真っ直ぐ進むしか出来ないから歩こう、歩けばいつか必ず街に着くはず。)


 悪い事がおきると考えて行動するより、良い事が有る信じて行動する様に。そうすれば、どんなに悪い事がおきてもその先にいい事が待ってると思えてどんなに困難でも真正面から立ち向かえる、乗り越えて行ける様になると昔大好きな人に言い聞かされた。その御蔭で仕事で、日常で困難に直面しても乗り越えて生きてきた。


(だから今回も乗り越えれるはず。)


 そう自分に言い聞かせ歩き出す。足下の道を見失わないように、立ち止まる事の無いように前を向いて歩き出す。

 はずだった……。


ごお゛お゛お゛ぉぉぉぉぉおお


「!!?」


 聞いた事のない音が鼓膜を、肌を、空気を震わす。前へと踏み出す足を止めるに、前進しようとする心をいとも容易砕く。


(咆哮…。それもそんなに遠くない…。)


 聞いた事のない音に体は竦み硬直、だがそれでも考える事を止める訳にはいかない。死に直面している様な状況で考える事を止めるのは、死を選択していると同じ。呼吸の数を極力減らし息を殺す、恐怖と焦り、不安で高くなっている心拍数を無理矢理落ち着かせる。姿勢を低くし直ぐに逃げれる体制に持っていく、そしてじっと泣きそうになりながらも動かずに声の持ち主が居なくなるのを祈りながら待つ。

 ただ、じっと……。


 ……数分経っただろうか、もう平気かと思い立ち上がろうと体制を持ち上げた瞬間。


バサッ、バサッ、バサッ、バサッ


 上空から翼が羽ばたく音が、咆哮の持ち主の羽の音が舞い降りて来る。


(油断した!獲物が動くのを待っていやがった!!)


 逃げるにも体制を崩してしまっているからすぐに走り出せない、隠れるにもこの何も無い草原、死を悟りそうになりながらも必死に生きる為に考える。

 しかし。


ドスン…。


 羽の、咆哮の、地を揺らす巨体の持ち主は無情にも目の前に降り立った……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る