第13話 気付かない、気遣い
「奏ちゃーんっ!こっちのアルパカ可愛いよ~っ!...ってうわぁっ!唾吐かれたぁっ!!」
「あぁっ、凪咲ちゃん大丈夫っ!?」
「もふもふ...ふわふわぁ...」
木の幹にしがみついてぼーっとしているコアラを眺めながらぼーっとしている私の後ろの方で、私以外の三人が真っ白なアルパカと柵越しに戯れていました。
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あの後結局天海さんのケータイが見つからなかったらしく、今日は天海さんと二人で
彼女の車で動物園に行き、今に至る訳です。
到着してから既に数時間が経過していましたが、今日は天海さんが寄り付く事がありませんでした。いつもいつも寄り付いてきているせいで、プールの時もそうだったけれど、寄り付かれない時はこう、違和感を感じます。
いや、一人でいることに越した事は無いのですが...。
「やよちゃんやよちゃん、次あっち見に行こ?」
「うん。あっち何いたっけ?」
「えっとねー、.....アミメキリンだってーっ」
「き、キリンさんっ!」
そうこうしている内に天海さんは、小路さんを連れて別の場所に行ってしまいました。残された常葉さんは、未だにアルパカと戯れています。
私はひたすらにコアラを眺め、時間だけが過ぎていきました。
「はぁ...満足満足...。月乃さん、そろそ移動します...って、もしかして待たせちゃいましたか?」
後ろから声が聞こえてきたので、コアラから目を離しました。アルパカと十分に戯れ終えた常葉さんが獣の臭いを漂わせながらこちらに向かってきたので、思わず一歩引いてしまいました。
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天海さん、小路さんの二人と別行動をした私は、常葉さんと二人で園内をまわりました。何を見たかは、あまり覚えていません。名前も知らないような動物や、まさかの魚類がいた事は覚えています。
「か、可愛いっ、可愛すぎっ...」
そして現在、常葉さんはキラキラした眼差しで、熊を眺めていました。
一つの檻にオスとメス、二頭の熊がいました。
「み、見てください月乃さんっ!もう、あのオスの子が可愛くてっ!」
常葉さんの指差す先では、オスがメスの事をゆっくりと追いかけ、メスがそれから逃げているように見えました。
「ふふっ、まるで凪咲と月乃さんみたいです。」
さらっと、心外な事を言われました。
常葉さんに視線を向けてみると、クスクスと笑っています。
「だってほらあれ、凪咲が月乃さんを追いかけて、月乃さんが逃げてるようにしか見えなくて...ふふふっ...」
少しカチンと来たので、私は熊の檻から離れ、先へ歩きだしました。
「あぁっ、ごめんなさい待って下さいーっ」
ふと後ろを振り返ってみると、さっきまでオスから離れていたメスが、オスに頬ずりをしていました。
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「はい、月乃さん。どうぞ食べて下さい。」
「...。」
午後になり、昼食を取ることになりました。
道の途中にある小さな売店でサンドイッチを買い、すぐ側のベンチに並んで座りました。
ビニール袋から自分の分のサンドイッチを受け取り、袋を開きました。
「ん、これ美味しいですね。普通のコンビニのよりも美味しい...」
玉子のたっぷりと入ったサンドイッチ。一口食べてみると、確かに美味しかったです。
「どうです?ちゃんと
「...まあ...。」
常葉さんに心配の声を掛けられてしまいました。そんなに毎日、辛そうな顔をしていたのでしょうか...?
「ならいいんですけどね。凪咲、すっごく心配してたんですよ。」
常葉さんは一呼吸おいて、話を続けました。
「覚えてますか?ほら、前にちょっと様子がおかしいって話、したじゃないですか。」
勿論覚えています。
天海さんが昼休み、私の所に来なかった日のことです。
私は小さく頷きました。
「実はあれよりも前から既に悩んでたみたいなんです。ちょっと問い詰めてみたら、言ってくれましたよ。もしかしたら私が、凪咲が、月乃さんから笑顔を奪ってるんじゃないかって。」
.....。
言葉を、失ってしまいました。
「凪咲、言ってました。月乃さんは気付いてないかもしれないけど、月乃さんは私を見ると無意識か、一番最初に嫌な顔をするって。」
「...。」
「まあ、自分の好きな人に嫌な顔されたら、誰だって傷付くものですよ。それが、ずっと心に引っかかってたみたいなんです。」
「...。」
「けど、やっぱり月乃さんが好きだから近くにいたい!と言うもんで。だから、月乃さんに息抜きをさせたいって言い出して決めたのが、以前のプールと、今日の動物園だったんです。」
...。
思わず、聞き入ってしまいました。
「そんな...」
そんなことは無い。
私の笑顔なんて、もっと昔に捨てたのだから...。
「あぁ、今した話、凪咲には言わないで下さいね?」
私は少し考えた後、コクリと頷きました。
「それと、何か言いたいことがあったら、私ではなく凪咲に言ってください。言葉にしないと分からない...伝わらない事だって、あるんですから。」
最後に彼女の言った言葉は、今までの何よりも、私の心に深く重くのしかかったような気がしました。
「もし、あの子のことが嫌いじゃないなら、言葉にしてあげてください...」
...。
「...さて、これからどうしますか?この動物園にはですね、なんと魚までいるんですよ?」
言葉にしないと、伝わらない事...
「...常葉、さん...。」
「はい、なんでしょうか?」
「...獣臭い。」
「それは言葉にしなくていいんですっっ!!」
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