第11話 想起、再来

「奏ちゃん...。」


 茶色い長髪をおろした少女がいました。


「奏ちゃん...。」


 教室の椅子に座っている私と、その横に立っている天海さん。


「あのね、話したいことがあるの...。」


 彼女の目は暗く、そしてとことん冷たく。



「私、奏ちゃんのお友達、やめるね...。」



 そう冷たく言い放って立ち去っていく彼女は、かつて私を捨てたあの人によく似ていました――



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※



「...んっ、奏ちゃ~んっ」


 毎日のように聞いている声が私の名前を呼んできました。どうやら机を挟んだ向かい側にいる人が、私をずっと呼んでいたようです。


「...何?」

「奏ちゃんってばさっきからぼぉ~っとしちゃって。眠たいの?」


 今私の目の前にいる少女は、まるであの夢のように私を見ていました。しかし、その目はあの夢のような汚物を見るような目ではなく、真剣に私の事を心配しているようでした。


「もう放課後だよ?一緒に帰ろ?」


 見渡せばもう生徒はほとんどいませんでした。どうやら、居眠りをしてしまったようです。


「ん...。支度するから、待ってて。」


「ねーっ、天海あまみさーんっ」



 教室に、新しい声が響きました。

 扉の前で仁王立ちしているその正体は常葉ときわさんでも小路こみちさんでもない誰かでした。


「ねぇー、ちょっと手伝って貰える?うちらのクラスの人、あんた以外いなくてねー。」


 天海さんのクラスメイトを名乗るその女性は、天海さんを手招きしています。

 天海さんは彼女から私に視線を戻し、


「えっと、奏ちゃんごめんね?先帰ってて?」


 両手を合わせて私に謝り、小走りで教室を出ていきました。教室はしーんと静けさを取り戻し、夕日の差す教室が、改めて私にあの夢を思い出させてきました。


「奏ちゃんのお友達、やめるね――」


「...はぁ...。気分悪...」



 私はカバンの中から一冊の本を取り出し、間に挟まっている栞を外して読み始めました。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ...。



「えっと、どれを運ぶんだっけ?」


「あー、ねえ天海さん。」


「え?」


「あのさ、なんであんなのとつるんでるわけ?」


「えっと...どういうこと...?」


「まあいいや。さっさとあいつと、月乃奏と縁を切った方がいいと思うよ。でないと――」


「...。」




「天海さん、いじめの対象にされるよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る