第10話 白紙に黒文字で

 いつもと同じ学校、いつもと同じ授業、いつもと同じようにいる天海さん。


 全てはいつも通りに進むと、思っていたのに――



「あはは、そんな睨まないで下さいよ~。」

「わ、私たち、お邪魔だった...でしょうか...。」



 ――どうしてこうも、皆で寄ってくるのでしょうか。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※


 私と天海さんは向かい合って座り、私の右隣に常葉ときわさんが、その向かい側に小路こみちさんがいる状態です。


 どうして?どうしてこの二人がいるんですか?

 一昨日のプールで初めて会ったばかりなのに、こんなに馴れ合ってしまって...。


 ...。


 ――私が知らないだけで、普通はこういうものなのでしょうか?



「奏ちゃん、そろそろ夏休みだけど、話聞いてくれる?」


 そう言えば、あと数日で夏休みでした。すっかり忘れていました。

 常葉ときわさんがカバンの中から一冊のノートを取り出しました。


「えっとですね、さっき三人でやりたい事をいくつか纏めてみたんですが、この中でこれはやりたいとか、これだけは嫌だとか、あったらマルバツしてくれませんか?」


 開かれたページには夏のイベントである海や夏祭り、個人的にやりたいであろう勉強会など、様々な事が書いてありました。


 ...。


 やりたい事以前に、イベントが全部書き尽くされている気がします。

 おかげで、書き足すものも浮かびませんでした。


 全体に目を通した後、最後に書かれたものが気になりましたが、そっとノートを閉じて常葉ときわさんに返しました。


「ありがとうございます。じゃあ放課後、空けといて下さい。」

「...何故?」

「何故って...、予定とかの調整をですね?」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※



 その夕方家に帰った私は、ベッドの上で悶々としていました。

 それもその筈、あの頃以来一度として人と遊ぶことの無かった私が、夏休み遊ぶ予定を立てたんですよ。「私なんかが」と思うのは当たり前だと思います。

 側にあった手帳を開くと、昨日まで白紙だった手帳には沢山の予定が書かれていました。



 ――あれ、もしかして私、楽しみにしてる?


 ため息を吐き、布団をふかく被りました。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※



 朝、私はいつも通りに学校に着きました。今日の天海さんは校舎入口にはいませんでした。となると彼女は教室でしょう。私は上履きに履き替え、階段を上りました。




「おっはよ~っ!」



 教室のとびらを引くと、天海さんが教室から跳んできました。文字通り、開けた瞬間に飛び掛ってきました。

 急な事で避けきれなかった私は、そのまま彼女に抱きつかれ、尻餅しりもちをついてしまいました。


「っ痛...」

「奏ちゃ~んっ、おはよぉ~っ」


 いつも以上にり寄ってくる天海さんに、私はただ困惑こんわくするばかりでした。

 数人の生徒が珍しいものを見るような目で私たちを見ていましたが、彼女はお構い無し、といった感じでした。


 しばらり寄ったあと天海さんは私から離れ、「充電完了!」と訳の分からない言葉を残し去ってしまいました。

 私はその去りゆく背中を、ただじっと見ていました。





 ――あれで、隠せたつもりなのでしょうか。



 天海さんの目がうっすら赤く腫れている事に、私は気付いていました。


 それはまるで、昨日の晩泣き腫らしたかのようにも見えました――

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