第8話 初めてのプール
ただいま家の目の前で、見ず知らずの女性二人に挨拶をされました。
「おはようございます、月乃さん。」
「お、おはようございますっ!」
...あの、帰っていいですか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※
「紹介するねっ。
シンプルな黄色い半袖にミニスカートを履いた
まず初めに、よく読めない英語がプリントされた赤いTシャツにホットパンツというラフな格好をした、中性的な顔立ちのここにいる四人の中で一番背の高い女性が、こちらへ手を振りながら微笑んできました。
「どうも。
次にその隣にいる、淡いピンク色のワンピースを着た、恐らく天海さんと並ぶくらい背の低いおっとりとした顔立ちの女性が、消えゆくような声で喋り出しました。
「あ、あの。こ、
...。
「奏ちゃんっ!?」
「あ~ぁ、家入っちゃったね。」
「わ、私何かしちゃったのでしょうか...!」
マズイマズイマズイマズイ...。
思わず家に駆け込んでしまいました。
外から「トイレ行ったのかな?」なんて声が聞こえたので取り敢えずは一安心です。
しかし、流石に高難度が過ぎますよ。
だって、つい最近まで天海さんとすらまともに会話出来ていなかったと言うのに、名前も知ったばかりの人と、それに二人も。
...。
「まずは...話すところから...か...。」
ふと、少し前に心の中で誓った言葉を思い出しました。玄関の壁に寄りかかり、深く深呼吸をして荒くなった鼓動を落ち着かせます。
そして最後に深呼吸とは違う、諦めの意を込めた溜息を吐いて、外へ出ました。
「あ、戻ってきた。」
「奏ちゃん、お腹痛かったの?」
「...大丈夫。...月乃奏、よろしくね...。」
「わあ~、聞いた通りの人だぁ~。」
私の無表情、かつ小さい声の簡単な自己紹介に、
聞いた通りとは、恐らく「暗い子」とかそんなとこでしょう。
「よ~し、それじゃしゅっぱーつ!!」
「「おぉ~っ!!」」
「お、おぉ...。」
天海さんの元気な掛け声に続く二人の高らかな声に、私は小さく便乗するしかありませんでした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
「いつ来ても広いね~。」
「うん。私来るの初めてなんだよね。」
「私、ま、前に来たことありますっ」
家の近くでバスに乗り揺られる事十数分、到着したのはこの辺りでも有名な、大きな市民プールです。
「よぉし、じゃあ入ろうっ。券はあるからお金は気にしないでねっ」
「おっ、なんかありがと、凪咲。」
「あ...ありがとうございます...っ」
...。
さて、私は入口よりさらに遠くにある券売機に一度寄らなくては。
「あぁっ、奏ちゃんの分もあるよ!?」
よく見ると天海さんの手には、私が含まれているであろうペア券が握られていました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
薄暗い部屋。
天井でほんのりと光る電球。
一枚の布を隔てた外の世界に、私は出ることを禁じられていました。
何故なら――
「じゃあ次、奏ちゃん出てきてっ」
外から声が聞こえましたが、目の前の布は私が開こうと手を掛ける前に勝手に開かれてしまいました。
「おぉぉっっ!やっぱり私の目に狂いは無かったねっ!」
「うん、このプロポーションはちょっと羨ましいかも...。」
「うぅぅ...」
目をキラキラとさせながら喜ぶ、白いラッシュガードで水着を隠してる人。
値踏みを垂れて羨ましがる、私よりスタイルの良い真っ赤なビキニの人。
私を見た後自分の胸に触れ、表情を暗くさせてるピンクのサロペットを着た人。
そして、その三人の視界の先に立つ、黒い水玉のビキニを着た私。
――何これ。私を殺す気なのでしょうか?
人混みは苦手では無いけれど、目立つのは苦手なんです。
そっと、しかし迅速に、持ってきた花柄のバスタオルで身を包みました。
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