私達の日常

第7話 水玉

 月乃つきの かなでです。


 ただ今どういう訳か、あるショッピングモールで着せ替え人形にされています。



 ※※※※※※※※※※



 時はその日の昼まで遡ります。



「夏だし、海とかプール行きたい!!」



 いつもの様に天海あまみ 凪咲なぎさと二人で昼ごはんを食べていると、彼女が唐突にそう切り出しました。


「ふぅん...。行ってらっしゃい。」


 夏と言えば確かに海水浴とはよく聞くけれど、実は私は一度も行った事がありません。今度時間があったら行ってみようかな...。


「えっ?奏ちゃんも行こうよぉっ」

「嫌。」

「奏ちゃぁぁんっ!!」



 ※※※※※※※※※※



 回想終了。

 結局押しに負けてしまった私は水着を買うために学校から少し遠いショッピングモールへ向かい、現在に至るわけです。


「ん~、奏ちゃんってスタイル良いし可愛いもんなぁ~。あっ、これとか良いかもっ」


 私は何もせずに試着室で待機。天海さんが水着を選んで持ってきて、私が着る、そして天海さんが毎回高評価して、私が却下する。ずっとその繰り返しでした。

 どう考えても私に似合うはずが無いんです。実際私って、地味だし。


「むむむぅ...。これでどうだっ!私のイチオシ!」


 天海さんが茶色い髪を揺らして、新しい水着を持ってきました。

 黒に白の水玉模様のビキニ、しかも黒いレースの装飾付きです。似合うはずが無いです。

 試着してみると、天海さんは目の前で「おぉぉっ!!」とうなり、長い髪をゆさゆさと揺らしてました。目をキラキラと輝かせ、親指を立てています。



 ...。



「えぇぇっ!?」


 恥ずかしさとか申し訳なさとかでいっぱいになり、カーテンを勢いよく閉めました。向こうから天海さんの驚く声と落ち込む溜め息が聞こえたけど、気にしません。




 気に...、しません...。




 ...はぁ...。



 ※※※※※※※※※※



「えへへっ、奏ちゃんとプールっ、奏ちゃんとプールっ」


 すっかり夕日も暮れ、私達は家路に着いています。

 私の手には紙袋が一つ。その中には黒い、水玉模様のビキニが入っています。それが余程よほど嬉しかったのか、天海さんのテンションはずっと上がりっぱなしでした。


「明日楽しみだね~っ」

「うん。」

「じゃあ待ち合わせは後で、電話で話しよっ」

「うん。またね、天海さん。」

「じゃあね~っ」


 私の家の前で天海さんは手を振りながら去って行く。彼女が遠くの曲がり角で手を振るのを見送り、家へ入りました。



 その晩私は、明日の支度をしながら天海さんと電話をしていました。

 支度とは言っても、買った水着の洗濯やタオルの準備をするくらいで、あとはずっとベッドに寝転がりながら話を聞いているものでした。




 突然電話越しの天海さんは元気な声で、地獄のような言葉を口にしました。



「ねぇ奏ちゃん。明日お友達を連れて行ってもいい?」



 ――急に、明日は休みたくなりました。

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