第11話 お兄ちゃん❕

夏子さんには、五つ年の離れたお兄さんがいるんですよ。


高校時代にバイトでコツコツお金を貯めていたらしく、高校卒業と同時にいきなり、父に、

「俺、カメラマンになる。」と言って渡米しました。

昔から少し変わった所が有りましたが、その兄が日本で個展を開くらしく一時的に帰って来るそうです。


夏子さんは、仕入れ先から帰って店の入口に植木を並べている所でした。

向こうの方から一人男性が歩いて来ます。

「夏子、ただいま。久しぶりだな。大きくなったなっ。」

いきなりの声かけに、夏子さんは目を丸くしました。


「えっ、お兄ちゃん?」

たまに、良い写真が取れると手紙をよこしていましたが、会うのは約20年ぶりです。


「どしたの?いきなり帰って来るからびっくりしたよ。行くときも、いきなりだったけど。」


「ごめん、ごめん。帰る時連絡すれば良かったな。」

「相変わらずだね、そうゆう所。」

夏子さんは少し、ほっぺたを膨らましています。


「母さん、お兄ちゃんが帰って来たよ。」


夏子さんがそう叫ぶと父と母が店から飛び出して来ました。


「春樹、おかえりなさい。どうしたの?いきなり。帰って来るなら駅まで迎えに行ったのに。」

「ごめん。日本に帰るの久しぶりだから少し回りを見たくてさ、駅から歩いて帰ってきたよ。この辺変わってないのな。」


紹介が遅れました。

兄の名前は、四月に生まれたので、春樹(はるき)と言います。

内の家族は子供たちに季節の名前をつけるのが好きみたい?


「ところで、何で帰って来たんだ。もう、カメラマンを辞めたのか?」

「違うよ。父さん、こっちで念願の個展を開くことにしたんだよ。こう見えても海外じゃ少し名が知れているんだよ。(笑)」


「そうなんだ。すごいね、春樹。」


母さんは、嬉しそうです。


「いつから、どこでするんだい?」


「来週の月曜日から一ヶ月だけ、東京の渋谷で開催するよ。見に来てな。」


「家族、総出で見に行くよ。」


「ありがとう。」


「今日は、ゆっくり出来るのか?晩飯食って帰れよ。」


「ありがとう。助かるよ。明日から個展の用意が有るから、明日の朝には東京に行くよ。」


「そうか、母さん今日は、春樹の好きなすき焼きだ。特上の牛肉を頼むぞ。」


「はい、はい。」


「兄さん、見に行くのは、来週の土曜日になるよ。良いかな?それと個展済んだら、アメリカに帰る前に、又家に帰って来てよ。会わせたい人がいるんだ。」


「なんだ、夏子、彼氏でも出来たのか?(笑)」


「うん。」


「まじか?良かったな。楽しみにしてるよ。」


「俺、久々に友達に会って来るから、荷物置いたら出かけるな。夕方には、帰るよ。」


「分かりました。夏子の隣の部屋は、そのままにして有るから、荷物は、そこに置いとくよ。」


「ありがとう。母さん。じゃ、行って来るよ。」そう言って、兄さんは、出掛けて行きました。


「母さん、春樹が個展だとさ。いきなり、カメラマンになるって出てったけど、どうなる事かと思ったけど、少しは、食ってけるようになったんだな。安心したよ。二、三年したら根をあげて帰って来るかと思ったけど。」


「ああ見えて、兄さんは、一度決めたらとことんやるから、天職だったんじゃないの?」


渡米前に、兄さんに

「何でカメラマンなの?」と聞いたら、カメラマンが主人公の映画に影響されたんだってさぁ?

兄さんらしいといえば兄さんらしい。(笑)


夕方に兄さんは、帰って来ました。

リビングのテーブルにグツグツと良い匂いをさせたすき焼きが出来ました。

兄さんは、すき焼きが大好物で、兄さんの誕生日は、いつもすき焼きでした。

母さんの得意料理の一つです。


「いただきます。」

皆、掛け声と共に鍋をつつきます。


あまりの美味しさにあっという間にすき焼きは、なくなって行きました。

「ねえ。兄さん。明日、仕入れが終わったら東京まで、車で送ってあげるよ。」


「ありがとう。でも、店は、大丈夫なのか?」

「良いよね。父さん?」


「良いよ。夏子。春樹と久しぶりに会ったんだ。積もる話も有るだろう。明日は、仕入れ済んだら、仕事は休みなさい。気をつけて行ってくるんだぞ。」


「やったー。ありがとう父さん。余り遅くならないように帰るよ。晩御飯も兄さんと食べるから。」


東京へは、車で二時間位かかります。

久しぶりの東京、少し楽しみです。


夏子さんは、お風呂を済ますといち早く寝ました。

父さんと、兄さんは、これからお酒を飲むみたいです。

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朝、仕入れ先から帰って来ました。

「兄さん、お待たせ、じゃ、東京に行くよ。」

夏子さんは、いつもより一層元気です。

「わかった。」

「母さん、父さん、昨日は、ありがとう。これから東京に行くよ。来週の土曜日、楽しみしてるよ。」

「気をつけてね。必ず行くから、待っててね。」

「じゃ、又来週。」

兄さんを車に乗せて、東京に向かいました。


「兄さん、今日の予定は、どんな感じなの?」

「昼の一時に個展の打ち合わせが有るから、それまでにそこに着けば良い。先に一ヶ月借りたホテルが有るからそこに送ってくれ。」

「えー、一ヶ月もホテル住まいなの?リッチだね?」

「結構、用意に時間がかかるから現場から近い方が良いんだよ。それに言っただろ、そこそこ売れてるって。」

「へー、すごいんだね。用意は、何時に終わるの?」

「今日は、初日だから、夕方の6時には繰り上げるよ。明日からは夜遅くまでかかると思うよ。」

「わかった。じゃ、夕方の6時過ぎに個展の場所に迎えに行くね。それまで、久しぶりに町をぶらぶらしてるよ。」


そう言って、ホテルの場所まで兄さんを送りました。

「じゃ、又後で。」

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夕方になりました。

久しぶりに一杯買い物をして夏子さんはルンルンで、兄さんを迎えに行きました。


「兄さん、迎えに来たよ。」


「おう。」

そう言うと、兄さんは、個展を一緒に開催する人達にお辞儀をして、こちらへ向かって来ました。

「夏子。何食べたい?なんでも良いよ。兄さん、久しぶりの日本なんだから、兄さんの食べたい物で良いよ。」


「おっ、大人になったなっ。じゃ、寿司でも行きますか?」


「やったー。ってお財布大丈夫?」


「何とかなるっしょ。(笑)」


そう言って近くの江戸前寿司を食べに行きました。

二人は、子供の頃に戻ったように一杯話しました。

「兄さんは、彼女いないの?」


「いるよ。アメリカで学校の先生してるよ。ちなみに、日本人です。」


「ふーん。又紹介してよね。結婚はしないの?」


「まだかな?したいけど、こんな仕事だから時間が取れなくてね。夏子は?」


「あたし?しても良いけど、彼のおとうさん病気だからそれが落ち着かないとね。この前、退院は、したんだけど、今は通院しながら自宅療養してるよ。」


「そうか。お互い忙しいなぁ。結婚決まったら連絡しろよ。ご祝儀沢山持って祝いに行くから。はいこれ、あっちの電話番号。」


「ありがとう。その時が来たら連絡するよ。」

楽しい時間もあっという間です。

「今日は、ごちそうさま。明日からの準備頑張ってね。必ず、来週の土曜日に家族で見に行くからね。」


「こっちこそ、楽しかったよ。又には日本も良いなぁ。又長期の休みを取れたら帰るよ。」

そして、夏子さんは、兄さんをホテルに送りました。

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土曜日になりました。

兄さんの作品はどんなのだろう。

ワクワクしながら父と母と愛犬のゴロウを乗せて渋谷の個展会場に向かいました。

ゴロウを入口の人にお願いして、中に入りました。

「兄さん、来たよ。」


「ありがとう。皆。ゆっくり見てって下さいね。」

そう言われて、数々の写真を見て回りました。

兄さんの写真は、人物が多いです。

色んな写真を見て奥に進むと。

夏子さんは感無量になり、泪が一杯になりました。

そこには、僕の宝物と題して、私達家族の写真が有りました。

この写真は、たしか、兄さんが渡米する年に皆で海水浴に行った写真でした。

「兄さん、ありがとう。これが、見せたかったんだね。」

「そうだよ。あの日、思いきって家を出たものの、実は、その一ヶ月後に急にホームシックになってさぁ。バカだよね。でも、毎日この写真を見ながら頑張って、ある程度の生活が出来る様になったら皆に俺の作品を見せようと思ったんだ。本当、この日を迎えられて良かったよ。」

家族三人は、兄さんの作品を見て大満足でした。

「じゃ、帰るよ。春樹。一ヶ月後家に帰って来いよ。」

「うん。この個展を成功させて、必ず帰るよ。」

そう言って、この家族の写真をポストカードにしたものを貰いました。

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一ヶ月後、兄さんは、帰って来ました。

今日の晩御飯もやっぱりすき焼きでした。

「明君、夏子を頼みます。俺に似ておっちよこちょいな所もあるけど、自慢の妹だから本当、頼むぞ。」

「はい、分かりました。お兄さんもお体に気をつけて頑張って下さいね。」


「夏子。辛い事が有ったらいつでも連絡して来いよ。兄ちゃん暇だったらすっ飛んで行くからな。」

「気長に待ちます。兄さんもお元気で。彼女さんにもよろしくね。」

「おう。わかったよ。伝えとく。じゃなぁ。」

そう言って、兄さんは、新幹線に乗りました。

今から、空港に行って又兄さんはアメリカに行ってしまいます。

寂しくなるけど、近い未来会える約束をして分かれました。

兄さん頑張ってね。

夏子も頑張るから。






















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