第二章:娘コゼットは地獄から地獄へと渡る

ジャン・ヴァルジャン五度目の脱獄

 私はぜひとも脱獄しなければなりませんでした。というのはもちろん、あの哀れな女の娘たるコゼットを、まったく子供を返そうとしないテナルディエ夫妻から連れ出してやらないといけなかったからです。一度脱獄さえしてしまえば、かつて工業によって正当に得た報酬を隠しておいたのを掘り出すことができるので、入り目にも困らないでしょう。機会は意外とすぐにやってきました。

 ある日、オリオン号という軍艦を修繕する仕事に駆り出されました。囚人というのは国家の安価な奴隷です。私はいつでも逃げ出せるように、鎖を海水につけてやり、随分と錆びさせてやったものです。そうこうしていると、うっかりした水夫が足を滑らせて梁から落ちてしまいました。彼はギリギリのところで垂れている縄につかまりましたが、縄をつかんでいられるのはそう長くもなさそうでした。だれも助けようとしなかった。そこで私は監督官に願い出て、あらかじめ錆びさせておいた鎖を槌の一突きで破壊し、彼を助けに行きました。四度の脱獄をなしえた私の、あのの力にかかれば、彼を助けて梁に戻してやることぐらい、随分とわけのないことでした。しかし難しいのはここからです。私はわざと梁から海へと飛び降りました。もっとも野次馬たちや囚人たち、そして監督官からすれば、うっかり落ちたように見えたでしょう。私は潜ったまま長い距離を泳ぎ、人気のない場所まで行かなければならなかった。しかしうまくやったのです。翌日、捨てられていた新聞で、私が事故で転落死したものと思われていることがわかりました。こうして私は五度目の脱獄をなしました。再び見つかれば死罪は免れないでしょう。しかしともかく、コゼットを助け出す準備は整ったのです。

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