第61話 根拠
ピーター。お袋のくれたこの名前は気に言っている。だから、誰にもミスタなんて付けては呼ばせない。それが、プライドの低い俺の、数少ないポリシー。
(長い物には、巻かれる主義ではある)
ただ、その長い物って奴を。此の目で確かめるぐらいのことはする。無用の長に巻かれたって仕方は無いだろうから。
(誰かが。俺を先進的だと言った)
そんなことは無いだろうに。俺は力のあるものに従っているだけで。
ただ、まあ。
(俺は、記者だったから――)
――権力よりも、もっと大きな力があると思っていただけだ。
「クライミング誌、ですかね……?」
ピーターが聞く。目の前のカーナーシスに。今、何かの判断を下せる程、情報は得られていないから。
それを分かっているから、カーナーシスはすぐに答える。
「ああ。今、近代
勿論、そんなことピーターは分かっている。分かっているから、自分の雑誌でも、先進的な登山に関する情報を取り上げている。高難度の山の、登頂に関する情報や、装備に技術についてだって――
そう思って、ピーターは気付く。別に盛り上がっているのは、文字通りの雲の上の世界だけでの話では無くて。
「反対に、低山ハイクやトレッキングも盛り上がっちゃいますね――」
「そうとも。お前のところの雑誌の顧客も、そちらが主な筈だ」
そりゃあそうだ。先進的な登攀なんて危ない真似、皆が皆やりたがる
詰まる所――
「――カーナーシス氏は、需要と供給の仕方に齟齬があると言ってるんですね」
「まあ、そうだ」
カーナーシスの肯定。だが――
「ソレだけじゃあ、無いでしょう」
ピータは詰める。
「今の話じゃ、売れない内容を取りまとめた雑誌を作るって言ってる様なモンです」
そういう前置きで、話があった。
つまり、カーナーシスは――
「売れないコンテンツを、金に変える方法がある、と」
そう、思って。持ちかけているのだ。
「別に、雑誌そのものが最初から売れるとは思っていないがな」
――だが、その雑誌を売りたい奴らは、出版社以外にもいる。
「現在、クライミング用品を扱うメーカは多いだろう」
この十年で、登山具のメーカも色々取り扱う様になっている。
「そいつらは、広告を出したいんだよ。折角作った道具も、宣伝できる場所が無いまま眠っているからな」
「なるほど」
実際、それが原因で、新しい道具の開発を渋っている会社も有ると聞く。
ピーターは感心した。企業が広告を出してくれれば、創刊してすぐに廃刊になることも無いだろう。それだけ、広告収入ってものは大きい。
そして、カーナーシスは続けて――
「其れで、その間にだ。するんだよ――」
ピーターが、何にと聞く前に。
「――その、クライミング誌を。売れる雑誌にだ」
半ば確信的に語るカーナーシスに、ピーターは
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