第5話「質問と解答」

 優柔不断な男がいた。

 何を決めるにも悩んでしまい、誰かの指図がなければ動けないような男だった。


 ある日、男は友人からロボットを譲り受けた。


 友人曰く、「質問をすれば何でも正しい答えを出してくれる」というロボットらしい。

 男は良いものをもらったと喜び、部屋の隅に置いた。


 男はその日、夕食の献立が決まらないでいた。どこかへ食べに行くような金は、今財布の中にはなかった。

 男はロボットのことを思い出し、友人からもらった説明書を読みながら、電源のスイッチを入れた。ロボットに電源が入っていることを知らせる青いランプが灯った。


 男はロボットに付いたマイクに向かい、「今日の夕食はどうしよう?」と囁いた。ロボットはギリギリと内部で音を立てて考え始め、やがてレシピが印刷された紙を吐き出した。


 レシピに載っている材料はどれも冷蔵庫の中に入っており、男はレシピ通りに料理を作った。

 その料理はとても美味しいものだった。男は満足し、腹をさすった。


 ある日男は、会社で企画のプレゼンを任されることになった。

 しかし、自分一人で資料など作ったことがない。会社でああでもない、こうでもないと頭を抱えて悩んでいると、終業時間になってしまった。上司には「持ち帰らせてください」と言って何も入ってない空っぽのUSBを抜き取り、カバンにしまった。


 その日の夜、男は帰宅すると着替えもせずロボットの電源を入れた。ロボットはランプを点けて目を覚ますと、男の「資料の作り方を教えてくれ」という声を聞き届けた。


 ロボットはギリギリと音を立てて考え、数枚の紙を吐き出した。

 基本的な資料の作り方やコツ、気をつけるべき点など詳しく書かれた指南書だった。


 男はロボットに言われた通りの方法で資料を作り上げると、それを会社で発表した。

 その資料は上司や他の社員からも好評で、男は上司に褒められた。

 男はいい気分になって家に帰った。


 ある日、男はロボットに「女の子を食事に誘う方法を教えてくれ」と囁いた。ロボットはギリギリと音を立てて考え、そして数枚の紙を吐き出した。男はその紙を読み込み、食事の誘い方を覚えた。

 次の日、仕事終わりに男は気になっていた女子社員を食事に誘った。


 しかし、うっかり男は「食事へ誘った後のこと」をロボットに聞いていなかった。

 男はレストランでメニューを何度も読み返し、なかなか注文する料理を決められないでいた。

 お腹を空かせて苛立った女子社員は、優柔不断な男に怒って帰ってしまった。


 男は心の底から落ち込み、ロボットがいなければ何もできない自分に絶望した。

 とぼとぼと家に帰ると、男はロボットのスイッチを入れ、「今すぐ幸せになれる方法を教えてくれ」と囁いた。

 するとロボットは今までと違い、間髪入れずにギリギリと一枚の紙を吐き出した。


 男はその紙を読み、印字されていることを実行した。


 しばらくして、男の友人が家を訪ねてきた。

 ただ、その友人の顔をした何かは黒いローブを羽織り、左手には大きな鎌を持っていた。

 その何かは男の姿を見ると満足げに笑い、隅に置いてあるロボットを回収し、去っていった。


 男は部屋の真ん中で、一本のロープに吊られていた。

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