……え、

「…………」


……濡れた。


頭からトカゲの血を思いっきり被った。


……びしょ濡れだ。


そんなことになったのも、今から数秒前、


自分とルーちゃんがトカゲに追われている時、突如現れた探し人、赤ずきん


彼女(?)が、発狂してのたうちまわっていたチョーさんを、トカゲの口に放り込んだ。


そして、チョーさんを食って、その場で暴れまわりだしたトカゲに巻き込まれて、ルーちゃんが穴の方へ吹っ飛ばされてしまった。


そして、ルーちゃんに気を取られているうちに、いつの間にか離れていた赤ずきんが、自分たちの方に背を向け、親指を下向けると、トカゲの腹が裂けて、血がものすごい勢いで吹き出た。


その血の出た先にいた自分は、真正面から被り、全身真っ赤っかというわけだ。


現在、自分たちを追いかけてきていたオオトカゲは、腹から大量の血を流し、絶命している。


その血の大半が、こちらへ飛んできたのだ。


現在の自分を鏡で見ると、頭からトカゲの血が滴り、まるであの赤ずきんのように真っ赤な色をしているだろう。


身体中が鉄臭いし、ドロドロした液体が体にまとわりつく感じは、非常に不快で、今すぐにでも洗い流したい。


……でも、


「……ルーちゃん‼︎」


ルーちゃんはどうなった?


確か、ウルフからの頼まれごとで探していた赤ずきんを見つけて、でもその赤ずきんが人を人食いオオトカゲに食わせてて、それを見たルーちゃんが背後から切りかかろうとしたところで、暴れていたトカゲの尻尾に巻き込まれて吹っ飛ばされて……


そのまま穴に落ちた?


「まさか……嘘だろ⁉︎ルーちゃん‼︎」


信じたくない事実を前に、震える足をなんとか動かして穴の方へ歩を進める。


全身がトカゲの血にまみれ、鉄臭くなっているし、まとわりつく血がベトベトと気持ち悪い。


が、今はそれをなんとかするよりルーちゃんの無事を確認しなくては、


ここから穴まで約150メートルほど、


いくらホームラン級の当たりでも、人一人がそんなに吹っ飛ぶものか、


どこか、穴までに落下しているかもしれない。


だが、そんな期待も虚しく、どこにもルーちゃんの姿は見当たらない。


やはり落ちてしまったようだ。


この底の見えない、深さの検討もつかないあの大穴に。


ズシャァァ……


と、穴へ向かう途中、横切ったトカゲの死骸、


だと思っていたが、まだ息があるらしく、トカゲの目はこちらを捉え、食うためか、こちらへ来ようと血まみれの足で立とうとしていた。


「うそ……」


思わず一歩後ずさってしまう。


そこで、ある選択肢が頭に浮かんだ。


……このまま後ろへ逃げるか、戦って前に進むか、


ルーちゃんの無事を確認するまでは逃げるわけにはいかない、それに、相手は今にも生き絶えそうだ。あと何発か食らわせれば倒せるはず。


武器もある。


手にはウルフにもらったあの魔法陣、そこに魔力さえ通せば、剣が召喚されるはず。


ならば、逃げる理由はない。


「正直、使ったことがないし、今まで持ったことのない力である、魔力の発現の仕方は分からないが、恐らくは聖力と同じ要領だと信じたい」


手に力を込め、戦う覚悟を決め、トカゲに向かい合う。


あとは魔力さえ発現してくれれば……


そこで、トン……と、何か、柔らかいものが背中にぶつかる。


「幼女……悪魔?」


頭の上から声が聞こえた。


随分と落ち着いた女の人の声だ。


さらに、両肩に手が置かれ、


「……⁉︎」


両肩に手が置かれていて体の向きを変えることができないので、頭を上に向け、見上げる。


するとそこには……


「……ハァ、可愛い……」


こちらを見下ろしている赤ずきんと目があった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る