ついに出た、

……それは、一言で表すと”トカゲ”だった。


一枚一枚が、硬い金属でできているようなウロコが全身を覆い、地を這う四本の手足の先には、長く器用そうな指が五本と、それら一本一本の先には鋭く尖った長い爪が伸び、一歩一歩あゆみを進めるごとに地面に深く突き刺さっては地面を抉っている。


長く、しなやかにしなっている、鞭のような尾に、身軽そうな、細い体、走る際、風をうまく受け流せるように計算でもされているかのような、効率よく尖った口、


その口にずらっと並び、光を浴びるごとにその光を反射する、鋭く尖った歯、おそらく地下にいたからか、暗い中でも動き回れるように、少しの光でも問題なく見れるよう、大きく発達したのであろう二つの目が、ただでさえ恐怖心を煽る凶悪な見た目と合わさって、トカゲの化け物をさらに不気味な存在として、ギョロギョロとあたりを見ている。


……そして何よりデカイ。


その身長は、頭から尾にかけてはゆうに十メートルを超えると思われ、エルダー達よりはるかに高い、街を囲んでいる壁と並んでいることから、地面から頭までの高さだけでも五メートルはあるようだ。


それが一歩歩くたびに、地面に軽い地震のような揺れを感じる。


そしてその殺意溢れる全身が全てを物語っている。


「……狩る側だ。」


ポツリと、シャールが口走った。


狩る側の存在。


エルダー達の世界にも、少なからずいたそれらは、世界に生きる、ありとあらゆる生き物達を、まるでエサでも見るような目で見て、遊び半分で殺して回ったり、食って回ったり、ロクでもないものだった。


そして、そういう連中は、天敵もいないことから、数も多くなり、魔王とはまた違う意味で厄介な、まさしく生態系の頂点に立つ化け物だった。


「逃げようルーちゃん!」


もう十分だ。敵の姿はしっかりと目に焼き付けた、これ以上あれに狙われるリスクを負う訳にはいかない。


同時にエルダーは理解した。


自分の考えがいかに甘かったのかを、


(……何を馬鹿なことを考えていたんだ。)


心の中で舌打ちするエルダー。


そこで一度だけ、地面に転がるチョーをに目をやる。


「……すまない、チョー。」


おそらく今は自分達が生き残ることで精一杯だ。とても人一人担いで逃げて生き残れるような相手ではない。


(……本当にすまない。)



心の中でもう一度だけ謝り、シャールの方へ視線を移す。


「ルーちゃん、行こう。」


「……わかった。」


シャールは弓を下げ、エルダーと目を合わせる。


うなずき合った二人は、気配を消し、音を立てないよう、その場を離れようとする。


……が、


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー‼︎」


突然叫んで暴れ出したチョーが、全てをぶち壊す。


「クソがっ‼︎」


シャールの悔しそうな声が響く。


ギョロギョロと周囲を見回していた大トカゲの両目が、エルダー達のいる一点に集中する。


「おい!」

「森へ‼︎走って‼︎」


叫びあい、駆け出す二人。


が、もう遅い。


「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」


相変わらず聞くだけで最悪な気分になる鳴き声と共に、ターゲットを定めた大トカゲが、二人の方へと走り出した。



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