黒い玉

「………何これ?」


現在、エルダーは、シャールに案内されて、壁に沿ってぐるっと回り、街の入り口とやらの前にやってきたのだが、


その入り口が少し変だった。


エルダー達がいた世界では、街の入り口といえば、門があり、関所があり、門番みたいな人間が何人か立っていて、荷物や危険人物を取り締まっていた。


でもこの街の入り口は、


扉は無く、馬車一台がギリギリ通れるような、扉も何もない大きな穴が一つと、その前に、黒くて丸い、大きさは人一人がしゃがめば入れるくらいの、玉のような何かが一つ、地面に少しめり込むようにあるだけだった。


たとえこれが裏口で、きちんとした出入り口が何処かにあるにしても、あまりにおかしい光景が、そこにあった。


「これ?なんだろ、知らない、どーでもいい……ほらエー君。さっさと行こ。」


そんな光景には目もくれず、思考停止で歩いていくシャール。


「……カチッ……カチッ……」


シャールと、シャールに手を引かれたエルダーが近づいていくと、黒いボールから、何かがカウントを打つような音がして、


同時にボールの表面が淡く光りだし、そこに悪魔達が使うような、魔法陣が浮かび上がった。


「……ねぇルーちゃん、なんかヤバイよ。」


エルダーは、「これは絶対無視しちゃダメなやつだ。」と思い、シャールを止めようとするのだが、


「どこが?こんなの気にするだけ時間の無駄だよ。」


そういってボールの横を通り過ぎようとするシャール。


「……魔力……感知……」


あっ、これセキュリティだよ。悪魔とかの進入を阻止して街を守ってる何かだよ。


と、このボールが担っている役割を理解したエルダーだが、もう遅そうだった。


なぜなら二人は現在、完全にボールを無視して街への入り口と思われる大穴を、あと数歩でくぐるところまで来てしまっていたから。


「ダメだよ、よそうよ、絶対ひどい目見るから……」


このボールがセキュリティなら、魔力とか言ってた時点で、間違いなく自分達に何かしらのアクションを起こすだろう。


それも決して友好的ではないことを。


「……大丈夫!たとえ何があってもエー君のことは私が守るから!」


なんか生き生きとし始めたシャールが、より一層力強く歩き始める。



嫌だなー。


と思いながらも、シャールを止められなかった自分の責任だと諦めることにした。

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