赤ずきん
「ここが……目的地……」
時刻は夕刻、
日も傾き、あたりが暗くなってきた頃、エルダー一行は、出発時の予定通り、目的地の街へたどり着いた。
そして今、エルダー一行の目の前には、高さ5、6メートルはある、大きな赤いレンガの壁がある。
その壁は、ぐるりと街を囲んでいるのか、伸びた先でカーブして、ずっと先まで続いているようだ。
「あの……なんて名前の街だっけ?」
この世界へ来たばかりなので、知らなかったのは当然だが、
壁を見上げて、ようやく気になった、今更な質問をするエルダー。
「ん?始まりの街って名前だけど……まさか、それも知らないとか言うんじゃないだろうね?」
現在、エルダーの隣にいるのはウルフ一人、
シャールは、一旦エルダー達とは離れ、この壁に沿って歩いて、街に入れる入り口がないか探してくれている。
どうやらシャールもこの街へは、来たことがないらしい。
……エルダーに会うまでの、シャールの行動について、若干疑問が生まれ始めたエルダー。
そのことについては、今の依頼がひと段落したのち、改めてシャールに聞くとして。
今は、シャールがいなくなったことで、ようやくでてきたウルフと、時間潰しを含め、色々情報を聞き出しておこうと考えたエルダーが、質問をしている所だ。
「あははは……」
図星を突かれ、笑ってごまかすエルダー。
始まりの街、というくらいだから、なんとなくそのありようは分かるが、ハッキリしたことを聞き出すためには、一から聞いた方がいいかなと思い、そのままにする。
そんなエルダーを見て、呆れた様子でやれやれと首をふるウルフ。
「あきれたやつだね……この街は人間が冒険者になるならまず、始めに必ず訪れる街だよ……そして、悪魔の私達からすれば、ここから未来の敵が出てくる嫌な街なんだ。」
心底嫌そーな声で、この街について語るウルフ。
でもそんな街に探し人がいるので、来るしかなかったのだ。
……そしてウルフのその様子から、始めに何をしにこの街へ入ったのかを聞くのは、やめとこうと思ったエルダー。
「……なるほどな、つまり今から探す赤ずきんは、この街の冒険者ってことになるのかな?」
武器を持っていたのは、依頼で街か、街周辺に現れた魔物を倒すためで、赤ずきんをしていたのは防具か何かで、武器に血が付いていたのは、敵を切ったから、というなら、最初にウルフから聞いた、その狂人じみた見た目にもうなずける。
「おそらくね……」
ウルフは、やはりそうあっては欲しくないのか、どこか寂しそうに言う。
「まぁ、たとえそうであっても、礼さえすればそこまでだ。……もし私達の敵として現れるなら、戦うよ。」
そして倒して悪魔側の仲間に引き込むそうだ。
「そうか……」
でも悪魔の敵である冒険者なら、なぜ悪魔のウルフを助けたのか、少し不思議に思ったエルダー。
「でもさ、もし、その赤ずきんが切ったのが……」
魔物じゃなかったら?そいつは何を切ったんだ?
……そいつにとっての、本当の敵は?
と、ウルフに問おうとしたエルダーだったが、
「エーくーん!見つかったよー!」
嬉しそうに手を振りながら、駆け寄って来るシャールの呼び声に、遮られてしまった。
「この話は一旦終わりだね。私はオオカミ達をつれてひとまず街を離れるよ。もし赤ずきんが見つかったらここへ連れてきとくれ。いつでもいいように、見張りは毎日立てとくから。」
そうとだけ言って、オオカミ達をつれてエルダーから離れ、森へ姿を消していくウルフ。
「了解した。」
相手がどんな赤ずきんだろうと、必ず連れてくると心に誓い、その背中を見送るエルダー。
「きゃっほーい!数十分ぶりのエー君の匂いだぁ〜‼︎」
ヒシッと、そんなエルダーの背中から抱きつき、目一杯息を吸ったり吐いたりするシャール。
「おかえりルーちゃん。入り口見つかったんだね。」
「うん!」
「お疲れ様。……早速だけど、行こっか。」
「うん!」
再び手を繋いで、シャールが来た道を、街の入り口へ向けて歩き出すエルダーとシャールなのだった。
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