街へ向かう途中、

「ところでウルフ?探し人って、見た目の特徴どんなん?」


まずはそれを聞かねば、始まらない。


街へ着くまでに、できるだけ探し人の情報を集めようと、ウルフに話しかける。


「……ああ、そうだったね……あれは〜……一言で言うなら……赤ずきん、だね」


遠い目をして語るウルフ。


その姿を見て、なんだかおばあちゃんみたいだな〜と思ったのは内緒である。


「……赤ずきん?」


赤ずきんて、また随分と変わった格好の人間だな、と思うエルダー。


「ああ、年はあんたとそう変わらないくらいの娘で、頭に真っ赤なずきんをしてるのが特徴的な人間さ……それでね〜……」


あ〜……またウルフの一人語りが始まるな〜と、この短い間に、ウルフという悪魔の、おばあちゃんみたいな語り好きを理解し始めたエルダー。


話の腰を折るのもなんだし、街まではまだまだかかるだろうから、この際ウルフの語りをゆっくり聞くかと、耳を傾ける。



「……でね?そのずきんの色がまた良くてね〜……あの赤はそう、まるで本物の血液で染められたような、綺麗な赤ずきんだった。……あっ、ずきんの色以外にもね、もう一つ、分かりやすい特徴があったんだ!」


話の途中で、その赤ずきんについての特徴を思い出したようで、嬉しそうにまた語り出すウルフ。


「へぇ〜、赤ずきんに続く特徴って、どんなんだ?」


正直、赤ずきんという特徴だけでもう、そこそこ満足していたエルダーだったが、その探し人についての情報なら知ったおいて損はないだろうと一応聞くことにするエルダー。


「その娘がね、私を助けてくれた時のことなんだけど、」


まるで我が子を自慢するかのように語るウルフ。



「まだ新しい血のついた、でっかいノコギリを引きずっていたよ、片手でこう、ズルズルと……」


前脚で器用に再現するウルフ。


「血のついたノコギリて……それ、もう殺人鬼かなんかじゃないのか?」


街中で、血液で染められているようにも見える赤ずきんをかぶり、血のついたノコギリを引きずって歩く娘とか


……犯罪の匂いしかしない。

ただでさえかなりすり減らされていたエルダーのガラスのハートが、さらにガリガリ削られていく。


「だといいね……迷わず悪魔の仲間入りだ!」


なんか物騒なことを、さも綺麗なことを言ってるみたいにサラサラ言うウルフ。


「しかしそれは……また随分と個性的な格好だな、」


この世界の常識は知らないが、さすがにみんながみんな、赤ずきんをして血のついたノコギリを引きずっているとは考えられない、考えたくない。


何気なく返した一言だったのだが、


「そうなんだよ‼︎……あれはなかなか、悪魔の私からしても悪魔的ないいセンスをしていたよ。……人間にしとくにはもったいない、実に優良な娘だった‼︎」


急に上体を乗り出して、力説を始めるウルフ。


「そっそうなのか〜……会うのが楽しみだな〜…」


会いたくねぇ〜……なんか急に会いたくなくなってきたと、この先、その赤ずきんとやらに遭遇した時のことを考えて、気が重くなるエルダー。



だが、そんな特徴的な格好をしているなら、街につきさえすれば、ウルフの探し人を見つけるのも簡単だろう。


「そっか、そんな目立つ格好ならずぐ連れてこれると思うぞ!楽しみに待っていてくれ」


……捕まってなければだけど、と、心の中で付け加える。


そんな見るからに殺人鬼な格好の娘がいれば、速攻で街を取り締まる連中が飛んできて、逮捕されるだろうと、少し心配になる。


「ああ、期待してるよ……」


エルダーに視線だけ向けて、期待を表すウルフ。


エルダーからしたら、そんなヤバそうなやつに会いたいという、ウルフの気が知れないが、それもまた、人間と悪魔の考え方の違いだろうと割り切ることにした。


……それに、仮にもウルフの命を助けたっていう事実があるんだもんな、


と、その赤ずきんにも、少しは良心があることを期待して、依頼に挑む決意を新たにするエルダーだった。




「……それじゃ次の質問なんだが、今向かっている街について色々と……」



……と、一安心して、次の質問をしようと口を開くエルダーだったが、


「ん?……あんたの連れ、大丈夫かい?」


ウルフからの謎の発言に遮られる。


「えっ?」


連れ……というと一人しかいない。



恐る恐るシャールのいる方を見る。


……そこには、



なんだか寒気でもするのか、自分で自分の両肩を抱きしめて、ガタガタ震えながら歩くるシャールの姿があった。

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