街へ行こうよ、〜の森を抜けて、

翌日、


「ふわぁ〜……よく寝た。おはよう、エー君」


気持ち良さそうに伸びをしながらエルダーに朝の挨拶をしてくるのはシャール、


以前エルダーとは共に旅をしていた仲間で、世界が変わったのに、なぜか存在していて、この世界へやって来たエルダーと再開、再び行動を共にすることになった少女である。


シャールは、以前の世界で、エルダー共々、オオカミに追い回され、大の犬嫌いになったのだが、昨晩、ウルフとエルダーの会話の後、エルダーになだめられ、オオカミの群れに囲まれながら、野宿することになり、非常に御乱心だった。


最初は、オオカミ共を皆殺しにしないと気が落ち着かないとか言って、暴れ回ったシャールだったが、エルダーが一緒に横で寝てやると言うと、渋々承諾してくれた。


そんなシャールだったが、エルダーを抱き枕にして眠る際に、「枕……」とか言って、手近にいた、ウルフの連れのオオカミ達の内の一匹を、枕代わりに頭を預け、眠っていた。


そして朝、ウルフ含め、オオカミ達の姿をシャールが見ても、取り乱した様子がなく、まだ自分からは意識して触れ合いにはいけないにしても、少しはマシになったのかな?と、シャールの成長に、ほっとしたエルダーなのだった。


枕にされたオオカミは気の毒だが、おかげでシャールの犬嫌い克服へ、大きく貢献してくれたと、感謝しておく。


「おはよう、ルーちゃん……今日はよろしくね?」


昨日、寝る前に、シャールのご機嫌をなんとか直し、その勢いで、ウルフからの頼みごとについての話もして、なんとか今日、手伝ってもらえることになった。


代償は、


「うん、これかはもう、危険な場所へは行かずに、私のそばにいてくれるんだもんね?」


おそらく以前の世界での、エルダーが死ぬ瞬間を見たシャールなりの心配の仕方だろう。もう危険な場所へは行かない。シャールの目の届くところにいる。……というのが、これから先、シャールがエルダーと行動を共にする条件だった。


元々、この身体は女神のものなため、女神と自分が分離して、元の自分の身体になるまでは、危険なことはせず、まずは女神の信仰を集めて、力を取り戻すことを目的にしていたエルダーだったので、そこは問題ないと、承諾したのだ。


そんなエルダーの右手の甲には現在、昨日ウルフからもらった、剣を呼び出すことのできるという、召喚陣の描かれた紙、それと同じ模様が浮き出ている。


それは、ウルフから紙を受け取った時に、サッと消えた紙が、そのままエルダーの手に吸い込まれ、浮き出てきたのだ。


ウルフは、これで所有権は自分に移ったから、気合いでいつでも呼び出せるとか言っていたが、正直、イメージができずにいる状況だ。


まぁ、今すぐにできなくても、そのうちできるようになれば……と、考えるのを後回しにしている。


「……よし、準備はいいね?じゃあそろそろ街へ行こうか。」


ウルフがエルダー達に問いかけてきた。


「ああ、またせたな、行こうか、」


言って、これから行く街での、依頼遂行へ向けて、気合いを入れるエルダー。


こうして、ウルフからの頼みごとを叶えるため、エルダー、シャールは、ウルフと、その連れのオオカミ達の案内の元、街を目指して出発。

昨晩皆で夜を明かした場所を後にした。



「……エー君」


エルダーの隣を歩くシャールが、少し気まずそうに話しかける。


「なに?ルーちゃん」


エルダーが何気無い様子でこたえる。


「……その……犬と喋ってるのかもしれないけど、私からしたら独り言ブツブツと言ってるようにしか見えない……キモいよ?」


ウルフとエルダーの、会話の内容が分からないのが気にくわないのか、エルダーに突っかかり出したシャール。


「……ルーちゃん、そんなこと言われると、エー君のガラスのハートが容赦なく傷つけられるからやめて……」


どうしようもないことを言われ、胃が縮む思いのエルダー。


「あはは、あんたも大変だね〜」


そんな二人の会話を聞いて、シャールには、自分の言ってることが理解できないことをいいことに、完全に他人事なウルフ。


三者それぞれが、あれこれ言いながら、ウルフの探し人のいる街へ向けて、歩いて行く一行なのであった。

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