……かなり深刻ですね。
「ハァ……ハァ……」
独り言をブツブツつぶやいたのち、何か勝手に「これを確認すれば信じられる‼︎」……と一人で答えを出したかと思うと、エルダーにタックルを決めて押し倒し出したシャール、
何事かと思ったエルダーだったが、それはどうやら、目の前の悪魔が、見た目は明らかに違うが、互いに馴染んだ動きや、エルダーしか知らない秘密を知っているという事実から、中身はエルダー本人かもしれないという考えが捨てきれないシャールが、最後にエルダー本人であることを確かめるために、シャール本人の記憶の中にある、”エルダー本人であるかどうかを見分ける方法”とやらを実践しただけらしい。
……それが、
「……ハァ……ハァ……この匂い、間違いない、エー君の匂いだよぉぉぉぉ〜」
匂いを嗅いで見分ける‼︎……だった。
それも体の匂いではない。
もっと深い、魂の匂いとやらを嗅いでいるらしかった。
「……そっ……そっか、信じてくれたか、良かったよ……」
信じてもらえたのは嬉しいが、なんか複雑な気分のエルダー。
……それまでにも、もっと信憑性のあることを色々シャールに見せたはずだが……最後に信じられるのは、『魂の匂い』だったらしい。
「……でもそろそろどいてくれないかな?あれから結構時間が経ってるし、そろそろ日も暮れるんじゃないかな?夜の森は危ないよ?遭難とか……」
いい加減先へ進みたい、森を出て街へ行きたいと、シャールを説得しようと口を開いたエルダーだったが、
「……日ならもうとっくに暮れてるよ。」
「……えっ⁉︎」
もう完全に二人の世界に入り込んでいて、存在をすっかり忘れていたオオカミの群れと、そのリーダーのウルフ。
エルダーは、唐突に聞こえてきたウルフの声でそれらの存在を思い出し、ウルフの言った内容と二重の意味で驚きの声を上げる。
「……えっ⁉︎急にどうしたの?エー君?」
そしてエルダーの声に驚いてシャールが反応する。
「……いや、もう日が暮れてるみたいなんだけど、どうしよう、」
……そういえば、ウルフ達の存在を思い出して、同時に思い出したのだが、最初にいたシャールの仲間と思われる冒険者達が見当たらないな、
と辺りをキョロキョロ見回していたエルダーだったが、
「……あの冒険者供ならとっくに帰ったよ」
「……まじか」
ウルフの気の利いた一言で、解決する。
「ねぇエー君、さっきからどうしたの?一人で喋って、」
心配そうにエルダーの顔を覗き込むシャール。
「ああ、ルーちゃん……ルーちゃんの仲間が先に帰ってしまったらしいんだけど……」
仲間に見捨てられたよ、なんて、残酷なことを告げなければならないなんて、少し気まずい気持ちになって言葉に詰まるエルダー。
「あそう……」
あまりに無関心な返事が返ってきたことに驚く。
「よかったの?」
「うん、エーくんと再会できたし‼︎」
即答。
……こいつは自分を置いて逃げた、連れの連中に何も感じないのか?
少しこのシャールの情緒面が不安になるエルダーだった。
「でもどうして分かったの?」
疑問に思ったのはそこらしく、目を丸くして可愛らしく首を傾げるシャール。
「……ん?ルーちゃんには聞こえないのか?」
「……何か聞こえるの?」
……どうやらウルフの声はシャールには聞こえないらしい……
(……やはりこれも魔の力によるものなのか)
どうやら、魔王から魔の力を受け取ったことにより、
一、人間から見たら悪魔に見える効果、(自分の今の姿が確認できていないため、本当に悪魔の姿かもしれないが……)
二、前の世界では魔のものと呼んでいた類の、魔に連なる生き物と意思の疎通ができる効果、(これまたウルフの言葉しか聞こえないため、ウルフが他のオオカミとは違い、特別な存在である可能性もあるためなんとも言えない)
を、この身にに宿すことになったようだ。
そう結論を出したエルダー。
そして、エルダーが一人で自分の状況分析をしている間に、ようやくシャールの意識が外へ向けられる。
「……あっ……」
そこで「何かやっちまった……」みたいな表情で固まるシャール。
そして、自然な動作でスゥっと、無言でエルダーから離れると、そのまま無言で立ち上がり、ウルフ達に向けて剣を構えて、
「おいオオカミ供‼︎私とエー君が相手だ‼︎まとめてかかってこい‼︎」
今更ながら、自分達がオオカミの群れに囲まれていることに気づいた、的な様子など、みじんも感じさせない、清々しい表情で剣を振りかぶり、オオカミと交戦しようとし出した。
「……まっ、まってルーちゃん‼︎なんでかは分からないけどこのオオカミ達は敵じゃないよ」
少なくともそんな気がしてきたエルダーが、慌てて止めに入る。
「エー君⁉︎どういうこと?……オオカミが敵じゃないわけないじゃない‼︎……忘れたの?初めて二人だけで森に入った時、オオカミの群れに襲われて殺されそうになった時のこと。」
「忘れるわけないじゃないか‼︎……自分はあの出来事で……」
……それはまだエルダーが勇者になりたてで、冒険者としての知識が十分ではなかった時のこと……。
……初めて寄った街で、エルダーはシャールと出会い、そのまま二人で次の街を目指そうとしていた。
……その日は、二人揃ってなんか「二人ならなんでも出来る‼︎」的な、変なテンションになっていた。
謎の自信に満ち溢れた二人は、まだ日も暮れたばかりの、真っ暗な夜の森へ、二人だけで突撃したのだ。
……結果、二人は迷子になり、三日三晩アテもなくさまよった。
そして心身ともに参っている中、オオカミの群れと遭遇、夜が開けるまでひたすらに追い回された、という、なんとも言えない出来事があったのだ。
完全に自業自得なのだが……この出来事を経て、シャールは大の犬嫌い、エルダーは暗闇恐怖症という、一生もののトラウマを得た、エルダーの記憶史上指折りの、最低な思い出となっていた。
「……確かにそんなこともあったけど……このオオカミ達はあの時のとは違うんだよ‼︎話が通じるんだ‼︎」
……そう、話が通じる。
以前にはなかったことである。
「……ほんとなの?」
シャールが、とても信じられないという様子で、エルダーを見る。
「ああ、だから心配しなくていい……それにこのオオカミ達には、何やら自分達にして欲しいことがあるらしいからな、ひとまずは敵ではないと考えてくれて構わない。……だよな?ウルフ」
もしこれで決裂とかしたら、大変なことになる。
と、内心ビクビクしながらウルフの返答を待つ。
「……グゥン……」
どうやらエルダーの祈りが届いたらしく、思った通りにウルフが首を縦に振り、肯定の意思を示す。
「……なっ?」
よかったぁぁぁ〜……
と、内心でホッとしながらシャールの反応見るエルダー。
「ほんとだ……」
目をキラキラ輝かせて、信じられないものを見るかのように、ものすごく感心しているシャール。
「……で?さっきの続き……話って何?」
そういえば聞いてなかったな、と改めてウルフに耳を傾けるエルダー。
「……ではもう少し耳を近づけてくれ……」
他にも色々言いたいことがあるだろうに、それらを全て我慢してエルダーに頼みごととやらを話し出すウルフ。
「私があんたに頼みたいことってのは……」
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