直感
「この感じ……間違いない、エー君だ‼︎」
二人が木の棒で互いの剣技をぶつけ合い始めてから、かれこれ三時間……
もうとっくに日は暮れて、今からこの森の中を動くのは危険な時間になってようやく、シャールが納得したようで、構えていた木の棒を捨ててエルダーを見る。
「……ようやく信じてもらえたか?」
数時間の努力が実ったと、エルダーも、ほっとした様子でシャールと向き合う。
「あぁ、さすがにここまでされたら、信じざるを得ない……」
そう言ったシャールからは、先ほどまでの殺気はみるみる消え去っていく。
「いくら記憶を読んだりしたところで、ここまでエーくんの技や細かい癖まで再現できるとは思えない。
その後に、今度は別の何かがシャールから溢れていくのを感じるエルダー。
「ただいま……」
おそらくシャールはこの言葉を待っているのだろうと、頬を緩ませ、優しい表情で今にも溢れそうな彼女にただいまを言う。
そして待っていた言葉をかけられたシャールは……
「エー君が……生きていた……」
パァー‼︎っと明るい表情になった。
……かと思うと、急に眉間にシワを寄せ、暗い顔になり、
「いや、でもついこの前までエー君は確かに人間だった……それにエー君はあの時私の目の前で……でもあの技は間違いなくエー君の……なのに今のエー君は間違いなく悪魔……だとするとこれも悪魔の罠?……いやいくら悪魔でもエー君の動きをあそこまで再現するのは……」
そう言われたシャールは、エルダーに対してなぜか挨拶を返さず、何やら一人ごとをブツブツ言い始める。
「シャール?」
もしかして言う言葉間違えた?
と、少しずつ不安になっていくエルダー。
そんなエルダーを、完全無視で、シャールは、
「……なら……最後にこれで確かめる‼︎」
……どうやら一人で答えを出したらしい。
目に光が灯り、再びエルダーを見たシャールは、
今まではただ直立していただけだったのだが、急に姿勢を低くし出したかと思うと、両手をワナワナさせながら、ジリジリとエルダーににじり寄っていく。
「お……おい、なんだその体制は?」
武器は持っていない上、先ほどまでの殺意が今のシャールには感じられないため、安心してはいいと思うが、自分が想像していた展開と、あまりに違うシャールの謎な行動に、どう反応すべきかわからないエルダー。
「……た……」
「た?」
シャールが、一瞬ボソボソと何かをつぶやいたが、その声があまりに小さく、上手く聞き取れなかった。
「急にどうしたんだよルーちゃん、具合でも悪いのか?」
エルダーが、シャールの謎の行動に、急に具合が悪くなったのかと心配して、近づいていく。
エルダーが数歩歩いたところで、互いの距離が、あと一歩のところまで近づいた。
するとその時……
キラン‼︎とシャールの目が変わる。
そして……
「つっかまっえたぁぁぁぁぁぁぁ〜‼︎」
一飛びで、エルダーの懐に入り、そのまま胸に飛び込むシャール。
「うぉぉぉい⁉︎」
完全に不意を突かれてそのまま押し倒されるエルダー。
「オイ⁉︎急に何しやがる‼︎危ないだろ‼︎」
倒れた拍子に石で頭を打ったらどうするんだ‼︎
と、自分の上で自分の体にしがみついて固まってるシャールにキレるエルダー。
だが、
「……ルーちゃん?」
しがみついて固まったシャールが、あまりに動かずいるため、どうしたのか気になって声をかける。
すると、
「うっ……うぅ……」
何やら呻き声が聞こえる。
「ど、どうしたの?ルーちゃん?」
なんかさっきからシャールの様子がおかしい。
打ち所でも悪かったのかと、段々シャールが心配になってきたエルダー。
その後も数秒、固まっていたシャールだったが、
……ピクッと、体に電気でも走ったみたいに一瞬はねた。
かと思うと、急にシャールはバッ‼︎と顔を上げ、
「この匂い……間違いない、エー君だぁぁぁ〜」
幸せそうに微笑んだ。
「そ、そっか、信じてくれたか……」
……長い付き合いだからエルダーには分かる。
シャールのあの表情は、疑問がなくなり、相手を百パーセント信用した証だ。
「姿形は変わっても、エーくんの魂に染み込んだ匂いは変わってないぃぃいぃいぃぃ‼︎」
……どうやらこれで、シャールから見たエルダーがどう見えているかはわからないが、ひとまずは、敵の悪魔ではなく、エルダー本人であると信じてもらえたようだ。
でも匂い?魂の匂いて……
と、若干複雑な気持ちになったエルダーだったが、
よくみるとシャールは、両目にいっぱい涙を浮かべて、今にも大声で泣き出しそうにしていた。
「ルーちゃん……ただいま……」
これでようやく信じてくれたんだ。
自分がかつて共に旅をした仲間だと信じてくれたんだ‼︎
……匂いで‼︎
……あれだけ色々やって、結局匂いで‼︎
魂の匂いとかよくわからないモノのおかげで信じてもらえたと思うと色々複雑な気分になるが……
エルダー自身、押さえていたものが溢れ出すのを感じる。
目に光るものをつたわせてシャールの肩に手を置くエルダー。
……が、
「……ハァ……ハァ……」
「……ルーちゃん?」
段々息が荒くなっていくシャール、
上げていた頭を再び下げ、エルダーの上で、まるで蝶の蛹のように固まり、そのまま荒い息をし始めた。
……様子がおかしくなってきた。
と、シャールの体に異常はないか、確認しようと体を動かそうとするエルダーだが、現在シャールの体は自分にのしかかっている状態で手足はガッチリホールドされていて動けない。
どうする?このままじゃどうすることもできない、もし何かの発作なら急いで手当てしないと、
以前の彼女にはそんな様子は見受けられなかったが、この世界の影響が彼女に及んでいるとも考えられる。
無理にでも押しのけるか……?
と、考えていたエルダーだったが、ある異変に気付く。
スゥゥ………、ハァァァ〜………、スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、ハァァァァァァァァ………
「ン………チュゥゥゥゥゥゥゥゥ………」
「……?」
吸われている……
なんか、胸に思いっきり顔を押し付けて、なんなら口をつけて……大きく息を吸ったり吐いたり、時に吸引されている。
……そういえばルーちゃん、昔から匂い嗅ぐの好きな所あったな〜……
と、思い至るところがあるらしいエルダーは、
「……おぉ〜い、ルゥちゃ〜ん……」
シャールが、ある意味発作を起こしていることを悟ったエルダーが、どうしたものかと、情けない声でシャールを呼ぶことしかできなかった……。
……どうやらこの発作は、しばらくじっとしてれば治るものらしいが、なんとも恥ずかしいものである。
こうして、無事シャールの誤解も解け、感動の再会を果たしたエルダーだった。
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