あれ〜?これは〜……詰んだ?

「……あの〜……」


「黙れ‼︎悪魔の言葉に貸す耳はない‼︎」


目の前には殺気をガンガン飛ばしてくる冒険者一行、


後ろには森の中で自分を追い回し、隙あらば頭をかじろうとまでしたオオカミの群れ、


そんな絶望的な状況をなんとかしようと、まだ話が通じるかもしれない人間である、冒険者に声をかけたのだが、



完全に聞く耳を持ってくれない。


そしてエルダーに容赦ない言葉を放ったのは、冒険者一行の、リーダーと思われる女性……というには、まだ若く、エルダーと同い年くらいの少女だった。


力強く弓を構える少女は、長い赤髪をポニーテールにし、全身は重そうな鎧を身にまとっていて、その背中持ち手の少女と身の丈が変わらないほどの長剣が見える。


自分ならものの数匹に囲まれただけで逃げ出したオオカミの群れを前に、一歩も引かぬその姿は、まさしく勇敢な剣士そのもの、



弓矢を携えている上、声が先ほど矢が飛んできた時に聞いた声と同じことから、最初の矢を放ってきたのもおそらく彼女だろう、



そんな少女の後ろでは、彼女の仲間と思われる冒険者達……エルダー達よりひと回りは歳上と思われる短剣を構えた男二人に、僧侶っぽい格好をした、こちらは自分達とそう年が変わらないと思われる少女が一人、合計三人ほどが、足をガタガタ震わせて、めっちゃ逃げ出したそうに先頭に立つ少女の背中を見つめている。



そしてそんな少女を前に、エルダーは、


あ〜……いたな〜、あーゆーの……



どこか遠い目をして現実逃避していた。



「おい‼︎あんたそのままだと殺されるぞ?」


語りかけてきたのはオオカミのウルフ、



「何で?どっちに殺されるの?ちなみに自分、食べてもあんまり美味しくないと思うよ?」


もう色々どうでもよくなっているのか、普通にウルフからの問いかけに答えるエルダー、


「いや、現実逃避するにはまだ早いだろ?相手はたった四人、私達とあんたならなんとかできる」


「いやあんたらのことなんて信じられるわけないじゃん、それに今のはそーゆーのじゃないよ、」


「どういう意味だい?」


話が見えてこないのか、ウルフはエルダーに問いかける。


「いたんだよ……昔の自分の仲間に、ああゆうのが……」


そう……それはまだエルダーが前の世界で勇者として旅をしていた時のこと……、



エルダーにも、共に旅をする仲間がいた。



長い赤髪に、見るからに重そうな装備、


そして、相手との実力差がどんなにあっても、決して後ろへは引かない強い精神、


今、エルダーの前に立つ剣士の少女は、かつてエルダーが共に旅をした仲間の内の一人に、立ち振る舞いがそっくりだったのだ。



「……ルーちゃん、懐かしいな、」


思わず彼女の愛称を口走ってしまう、


シャール……、


それが彼女の名前だった。



シャールは、エルダーのパーティーに一番最初に加わり、エルダーとは最も長い時を過ごした少女だった。



最初に出会った時も、シャールはエルダーを盗賊だと言い張り、剣を向けて来た。


その後、何度も剣を交える内に、誤解は解け、



実力も、思考も、エルダーとほとんど同じだと互いに知り合ってからは、互いに最も気を許し合う仲になった。


その時には、最初は死ぬほど恥ずかしかったが、シャールきっての希望で、互いのことは、エー君ルーちゃんと呼び合うようにしていた。




エルダーが死んだ戦いでも、最後の最後までエルダーの隣に立ち続けた、エルダーが最も信頼していた少女である。


エルダーは、自分に殺気を向ける少女に、そんなかつての仲間の影を重ねて、どこか懐かしい雰囲気に浸っていた。



……のだが、


「エー君?エー君なのか?」


「はい?」


目の前の少女からの、予想外の愛称呼びに混乱するエルダーだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る