目的

「これからあなたにしてもらいたいことは三つです。」


「三つ?」


一つは新しい世界と、それを創り出した女神の調査、そしてもう一つはその世界のどこかにいる厄災の捜索、見つけ次第の討伐、



……では、後一つはなんだ?




パッと思い浮かばない。



「もう一つは、信者集めです‼︎」



「なるほど!」





確かに、我らが女神をいつまでもこのような場所で、弱ったまま放って置くわけにはいかない。


「私の力の源は、人々からの信仰です。よって、あなたには、新しい世界にいる人々に、我が”ハンナ信教”を布教し、信者を増やしていただきたいのです。」



つまり、今のハンナ信教の存続は自分の布教活動にかかっているという訳だ。



……もう、負けることは許されないということだ。




「わかりました。この勇者エルダー、必ずやその役目、果たして参ります。」



「頼みましたよ。」


「ところで、女神ハンナ、」


「何でしょう?」



「先ほどあなたが言っていたことなのですが、自分の肉体はすでにありません。どうやってその新しい世界へ行くのでしょう?」



今から行く世界は、女神ハンナが創り出した世界とは別の世界、今の弱った女神の力ではおそらく干渉することも難しい。




それなのに、横から無理やり別の世界の存在である自分の存在をねじ込み、さらに肉体のない自分が存在し続けるための、新しい肉体を作り出すなど、とてもできるとは思えない。




「そこは心配ありません。」


自信満々に、さも余裕のように告げる女神、



……女神の力を疑うわけではないが、その自信がどこから来るのか、若干疑問に思う勇者、




と、その時、




「……余を、お呼びかな?」



ドスの効いた、聞いただけで全身の熱が奪われるかのような感覚になる、どこまでも冷たい声。



……一度聞けば一生忘れることはできそうにない、この声の主は……



「どうして、貴様がここに……」



並の人間なら、その姿を見ただけで気を失ってしまうほどの、圧倒的なオーラを見にまとい、その男は、女神の創り出した、聖域とも言える、この空間を、悠々とこちらへ歩いてきた。



……正確には、歩いて来るように見えた。



「……魔王?」


思わず最後が疑問符になってしまったが、今こちらに近づいてくる男は、間違いなく、自分がいた世界の、魔王である。


だが、



その登場があまりにアレなため、思わず、気が抜けてしまった。


なぜなら魔王は、その存在感はそのままに、自分と同じ透明な壁の中で、仁王立ちしながら、フワフワ運ばれてきたのだから。



「……シュール……」



「オイ!よせ!それは余も理解している!だが仕方ないだろ?余も貴様と同じく、厄災の阿呆に肉体を消されたのだから。」



「そ、そうであったな。ところで女神ハンナ!魔王があの壁の中にいるということは、魔王もあなたが召喚されたのですね?一体どうして、」



「それはですね〜……」



「フハハハ‼︎それは余から説明してやろう!」



せっかく女神が自信満々に説明をしようとしてくれたのに、鬱陶しいくらいに、よく通る声が遮ってくる。





……何だろう、いくら恐怖の権化とされる魔王とはいえ、その状態でふんぞり返られても、見てられないくらい可愛く見えるだけだ。



……そして女神、あなたにジト目は似合いません。いくら自分の話の腰を折られたとはいえ、魔王相手に怒らなくても、それくらい譲ってやれば良いのでは?



「貴様が今何を考えているかは大体分かるし、今すぐにでもその首跳ねてやりたいところだが、残念ながら今は不可能だ、今回だけは許してやる。」



フワフワ浮きながらいう魔王も、何だか……



「オイしつこいぞ!」


「ごめんなさい……」

「よろしい、……初めからそう素直なら可愛げがあるものを……」




……最早何も言うまい。




「で?自分が新しい世界へ行くことと、魔王が今ここにいることに、一体どういう関係があるのでしょうか?」


「それはだな」


エルダーは女神に話を振ったつもりだが魔王が話を続けてきた。



だが、



「この魔王が、あなたを新世界へ連れて行くからです‼︎」




なんかめっちゃ「言ってやったゼ‼︎」的なドヤ顔をして、いいところをかっさらった感じの女神、



「クソオオオオオオォォォォォォォォォ‼︎」




……そして魔王、そんなにそこ、言いたかったのか?膝から崩れ落ちて地面に拳を突き立てるほどに言いたかったところなのかそこは……?



「アハハハハハ‼︎ザマァ見なさい魔王‼︎あなたの一番言いたかったところは、この女神ハンナがかっさらってやりました‼︎見ていましたか!エルダー?」




(エェ〜……そこで自分に振りますか……)




「……そんな、どお?私すごい?みたいな顔して迫られましても……」



……正直困る。




「勇者の言う通りだ!……そ、その程度のことではしゃぐなど……め、女神失格ではないか……」


魔王が目に涙浮かべて本気で負け惜しみとか、目に毒すぎる……





ジィィィィィー……



と女神とエルダーの視線が魔王に集まる。






「よ、よせ!……そんな、可愛そうなものを見るかのような目で余を見るな!……コ、コホン‼︎で、では、そろそろ本題に入らせてもらう!」



……あっ、無理やり話変えやがった。



「黙れ!いい加減話をさせろ!」




「わかった、わかったから、ホラ、話してみ?」


「……なんで余が諭されているのかしらんが、まぁいい……貴様は、魔王の復活という話を知っているか?」



「あぁ、まぁな、お前がそのいい例ではないか、」



魔王の復活とは、エルダー達がいた世界では知らぬ者はいない有名な話だ、



実は今目の前にいるこの魔王、今から数千年前に一度、エルダーではない勇者に倒されている。



だが、魔王の魂は完全に滅ぼすことができず、いつの日か、再び魔王が復活する、というのが、魔王の復活、



要は未来の人間に向けて、未来に起きうる危機を、忘れることのないように、語り継がれていた物語だ。




そして現にこの魔王は復活し、世の人々を苦しめた。


「余の目標は世界の征服‼︎それを成すまでは余の肉体はいくら滅ぼうとも、精神は不滅‼︎何度でも余は舞い戻るというのが魔王の復活だ」


目的を果たすまでは事実上の不死であり、何度でも復活し、その度に世界を脅かす。


「まあ勿論、そんなことを世界(私)がが許すはずがありません‼︎」


不死にして最強の存在である魔王に対する抑止力として、魔王の復活に合わせて生まれる世界の守護者。


それが勇者であり、今代はエルダーがその役目を果たすはずであった。


「……余は肉体が滅ぶと精神体のみとなり、暗い闇の中で復活の時を待つ。今回は勇者にではないが、肉体は滅ぼされ、魂だけが此処にある……つまりは今この状況だな」


「なるほど‼︎つまりはもう一度、魔王の復活の容量で新しい世界に蘇ろうということか!」



そして蘇る方法を知っている魔王から、その方法を聞き出すために女神は魔王をここへ召喚したという訳か、


「わかったぞ!ならば魔王‼︎早く蘇る方法を教えろ‼︎」


今の自分にはやることが山積みだ!


いつまた自分達の世界を終わらせた厄災が眠りから覚めるか分からない、それまでに厄災の弱点を調べ、倒せるだけの力をつけねばならない。

内心焦るエルダー。



「まぁ待て、蘇るにも色々と準備がいるのだ」


それを魔王は冷静に諭す。


「準備?なんだ?自分にできることなら、すぐにでも、なんでもする!だから……」



「勇者エルダー……そこまで私のことを……」



うっとりした顔で女神がエルダーを見つめている。



……嬉しい……



「が、そんな余韻に浸っていられない!魔王‼︎教えてくれ!蘇るのに必要な準備とは何だ?」


「それはだな……」


ようやく本調子に戻ったのか、魔王らしい雰囲気をまとい始めた魔王が、蘇るために必要な準備とやらを語り出す。

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