終わりの厄災
「全てが終わったって……まさか‼︎」
そんなことが、
いや、ありえる。
自分はあの世界の勇者だ!
勇者がいれば、魔王がいる。
魔王とは、その圧倒的な力で、この世のどこかにあると言われる、魔のモノたちの巣食う魔界を統べる存在であり、数で勝る世界中の人々をたった一人で恐怖に陥れた魔の王。
そんな魔王とは真逆の存在といえる、世界中の人々に希望をもたらす存在。
それが勇者であり、自分だ。
魔王の力は圧倒的だ。
普通の人間ならどれだけ束になっても勝ち目はない。
そんな魔王を倒すことができるのは、数多くいる人類の中から神々に選ばれた、たった一人の人間––––勇者だけなのである。
つまり、勇者は、魔王を倒すことが使命なのである。
自分は勇者として、世の人々を苦しめる魔王と戦い、打ち倒し、世に平和をもたらすべく、旅をしていた。
だが、自分はまだ、魔王を倒してはいない。
それどころか、まだ魔王とまみえることすらしていないのだ。
そんな勇者が死んだとあれば、世界中の人々に与える絶望は計り知れない。
そして、勇者だけが自分を倒しうる存在として、危険視していた魔王にとっては、さぞ朗報だったろう。
勇者がいなくなった世界に、魔王を止められるものは、いない。
ということは、自分が守りたかった世界は……その世界に生きる人々は、魔王に……
「いいえ、魔王は世界を手に入れてはいません。というよりは、できなかった、とでも言いましょうか。」
「どういう意味ですか?全てを終わらせる存在なんて、魔王以外……」
いや、
「います!それは……」
「厄災ですか……」
厄災という存在がいる。
それは、世界にいくついるとも分からない、はるか昔から語り継がれている謎多き存在。
そのうちの一つとされているのが、今回エルダーが遭遇し、死した理由だったのだ。
厄災は魔王に従う魔のモノでもなく、
天に使える守護者でもなく、
それは何者にも従わず、ただ破壊するだけの存在。
それがどこからやってくるのかは分からない、どうやって生まれるのかも分からない。
これまでにも、何度か現れ、破壊の限りを尽くしたと言われているが、それらはすべて、書物などのデータ上でしかなく、その存在を、証明できる物は何もない。
そのため、一部では、伝説上の生き物として、存在自体信じていない人間も多く、その存在自体、酷く曖昧な存在とされてきた。
だがもし実在したなら、
それはたとえ魔王でも、たとえ神でも、制御も制止もできないほどの力を有する、無敵の破壊者、
そして、その目に映ろうものならなんであろうと、すべてを焼き払う、生ける災害。
それが厄災である。
だから、
もし出会うようなことがあれば、
運が悪かったと、自らの命をあきらめることしかできない、確死イベントとなるのだ。
そんな厄災が、勇者として、魔王の元を目指して旅をしていた自分の前に降り立った。
そう……出会ってしまったのだ。
いくつかいるとされる厄災の内の一つに、
––––––––そして、
「自分は、あの災厄に殺された。」
「はい、そして、あなたが倒すはずだった魔王も、あなたが厄災に殺されてからすぐ、後を追うように……」
え?魔王も?厄災にやられたのか、
後を追うようにって、たまたま次の標的が魔王になっただけだろ?
「 それで?厄災にとはいえ、魔王が倒されたのなら結果オーライなのでは?」
「いいえ、そううまくはいきませんでした。」
「ですよね〜」
勇者も魔王も殺した厄災がそれで終わりとは思えない。
「さっき、全てが終わったと言いましたね。」
「はい、」
「それは文字通り、あなたが守ろうとしていた世界の全てが、あなたと魔王を殺した厄災によって焼き払われました。」
「なっ……!」
ということは、
「はい、あなたが生まれ育った世界そのものが消滅したのです。そして世界を終わらせた厄災の破壊は、我々のいる天界へも及びました」
「まさか‼︎ということは、ここが⁉︎」
「はい、ここは元天界だった場所です。今はそれらの残骸をかき集め、世界から隔離させた避難場所に過ぎませんが。」
「なんてことだ‼︎ならば、まさかあなたがそのような姿になられた原因は」
「……私は、私に使える守護者達が身代わりになってくれたおかげで、なんとか生きながらえることができました。ですが、身代わりとなった者達はみな厄災に殺され、消滅してしまいました。」
女神は申し訳なさそうに告げる。
「そして、天界も、魔界も、貴方達の住む人間界も、それらの全てを破壊し尽くした厄災は、力を使い果たし、長い眠りについたのです。」
「唯一生き延びた私は、しかし、もはや神としての務めを果たせるだけの力を失い、厄災によって消滅させられた世界を、元に戻すことができませんでした。」
その後、女神の話をまとめると、こうである。
力の大半を失った女神は、厄災からの破壊を免れた、天界の一部をかき集め、世界から完全に隔離、厄災から身を隠した。
それが、今自分がいるこの場所らしい。
しかし、女神の力の源は、人々の信仰心、信仰する人間が厄災によって消し去られたため、その存在を保つことができなくなり、みるみる存在が小さくなった。
それが、今目の前にいる女神が、幼女のような姿となった原因である。
「あのままでは、私の存在もあっという間に消滅してしまうところでした。」
そこで、女神は、自らの加護を与えたことで、深く繋がっていた勇者である自分を、この空間に召喚した。
それにより、僅かながらに信仰は復活し、こうして存在し続けることができている。
「とはいえ、今もこの空間を維持するだけで精一杯なのですが。こうして貴方と再会できた。これはものすごい幸運です。……記憶がなくなっていた時はどうしようかと思いましたが。」
僅かながら希望が生まれました、と続ける女神。
「ですが、アナタも肉体は死んでしまっています。なのでこうして透明の壁に閉じ込めなければアナタの精神も消滅してしまうので、このような再会となってしまいました。」
「それは良いのです。ですが、今の自分にできることは何もありません。たとえここから出られても、もはや自分が救う世界も、そこに住む人々も、もういません。たとえ眠りについている厄災を見つけ出し、打ち倒しても、何にもなりません。」
まさかこのまま永遠に二人で何気ない雑談をして過ごすために自分の存在をここへ召喚した訳ではあるまい。
「そのことなのですが……」
歯切れ悪く告げる女神。
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