第13話

公民館につくと、移動中ずっと黙っていた水戸兄が、いきなり口を開いた。

「うん、それじゃあ、即興の試合をしよう!即興は立論2分、質疑1分、反駁3分ずつね。」

論題は、『すべての中高の制服を廃止すべきである、是か非か。』だった。パートも、水戸兄が考えていたようで、

「えーっと、肯定は全部環ね。それでえーっと、否定は立論と一反を依莉さん、質疑と二反を三笠さんね。はい、準備時間はー20分くらいでいいかな。僕に相談はしてくれて構わないからー」

えっ…いきなり…?困惑したけれど、やりたかった二反、すなわち第二反駁ができる、ということで少し興奮もしていた。

「えー私1人なの!?無理だよ…何言ってんの兄。」

「はいはい、頑張る頑張る〜〜じゃあ時間測るよ、よーい、始め」

ピッ

タイマーの音。それは、あの冬大会で感じた緊張感を呼び起こさせた。

「依莉ーどうする?」

環ちゃんにあまり聞こえないように小声で話す。

「うーん、否定側だよね…。ってことは制服のいいところを考えて、それがなくなるって言えばいいのかな?」

「そうだね…。何があるかな…。」

紙を取り出して、『制服のメリット』と書く。

「選ぶ手間が省ける、っていうのはあるよね。私服選ぶの大変だし…。」

『1、私服を選ぶ手間が省ける』

「そうだね。あとは…帰属意識が高まるとか?」

「それはよく言われる話よねー」

『2、帰属意識が高まる』

「あと何かあるかな?」

「うーんどうだろう…。」

「さあ、どんな感じかな?もうね、5分たったよ。」

「水戸兄!こんな感じですねー」

1、2、が書かれた紙を見せる。

「制服のメリットから考えたのか。なかなかいいんじゃない?

そうしたら、これを現状分析にして、それがどうなくなるかっていう発生過程、どのくらい大事かっていう深刻性を書こう。」

「はーい。ありがとうございます。」

そう私が言うと、水戸兄はすぐ、1人で大変そう環ちゃんのところへ行った。やっぱり優しいお兄さんだな…。

「三笠ー?」

「あ、ごめんごめん。それじゃ…分担して書く?」

「うん…そうだね。じゃあ、私は1の方やるよ!」

「わかった、じゃあ2を書くね」

帰属意識…。難しいなー…何が大事なんだろうか。考える、考える、考える……。

何分経っただろうか。ある程度形になった原稿を見て、ふぅーっと息を吐くと、隣の依莉がこっちを向いた。

「終わった?」

「うん。」

と、その時。

ピピピッピピピッ

準備時間終了のタイマーが鳴った。緊張で顔が強張る。初めての、試合。一体、どうなるのだろうか。

「無理、無理だよ、1人でなんてむりむりむりむりっ」

向こうで環ちゃんがお兄さんに訴えている。可愛いけど…そんな愛でている余裕はない。依莉が書いたメリット1に目を通し、二反で何を話せるかを考える。

「もうごちゃごちゃ言うなー。やらないと始まらないぞ!ほらほら、やるから、前に立って…」

水戸兄に促されて環ちゃんが壇上に立つ。私と依莉はフローシートを取る準備をする。

水戸兄は、私たち3人の顔を順番に見ると、ニカッと笑って、タイマーを操作した。

ピッピッ

「では、始めます。論題は、『すべての中高の制服を廃止すべきである、是か非か。』です。肯定側立論、準備はよろしいですか。」

「あわわわ…えーあー…っと…あ…た」

「早く!もう大丈夫だろ?」

「えーあーうん。ハイ。」

「では、肯定側立論、時間は2分間です。始めてください。」

ピッ

「えぇと…。肯定側立論、始めます…。」

私たちの初めての試合が、始まった。



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