第6話

「三笠ーっ本当に大丈夫?さっきからぽーっとしちゃってるけど…」

「あ、うん。もちろん…。ディベートを初めて見て興奮してるだけだよ。」

「三笠ちゃんもですか!私もです!」

「なんだ、そっか。良かったー。じゃあさ、次の試合どこに行く?」

「…私、全部兄の見ようと思ってたんですけどっ兄は肯定側しか出ないので、あとの2試合は出場しないみたいなんですっ」

そっか…。環ちゃんのお兄さん、でないのか。

「んーじゃあ適当にこことかは?強そうじゃない?」

「いいんじゃない?」

ディベート以外でも名の知れている2校が出る試合だったので異論はなかった。私たちは、試合会場に向かった。



2試合を見ると、もう既にだいぶ疲れていた。

1試合目に比べると興奮はあまりなかったけれど、その分議論の内容はよく聞けた。肯定側の第一反駁の人が、ブロックがあまりできなかったようで、結果は否定が3-0で勝ったのだった。


12:40。お昼の時間だ。

「どこで食べようか…?」

「私の兄が、いそうな所でもいいですかっ?」

「うん。もちろん。挨拶もさせていただきたいし…。」

うん、うん、と頷く依莉。

環ちゃんの後に続いて教室に向かう。中に入ると、本当に環ちゃんのお兄さんがいた。

環ちゃんが小走りでお兄さんのところに行って、袖をくいくいっと引いている。可愛い妹だなぁ…。

私たちもお兄さんのところに行った。

「初めまして。梅泉学園ディベート同好会会長の石川依莉です。妹さんにはいつもお世話になってます。よろしくお願いします。」

…依莉、定型文まんまみたいに言い過ぎ。

「こんにちは、初めまして。梅泉学園ディベート同好会の会計の恩田三笠と言います。先ほどの試合、見させていただきました!すごいですね…これからもどうぞよろしくお願いしますね。」

「ね?この3人でディベート同好会作ったの。」

「ふーん。あ、三笠の兄の宏樹って言います。妹がいつもお世話になってます。この前同好会作ったんだって?ディベート、興味あるの?」

「はい…とても楽しそうですね〜…出来るかは、わからないですけれど」

咄嗟に答えてしまった。依莉はこういう初めての目上の人と話すのとかは、苦手だったはず…。

「まあ、僕に出来ることなら、色々やるから、相談してね。」

「あ、ありがとうございます。」

「この後も大会見てくの?」

「そのつもりです。」

「うちの先輩強いからね、よく見とくといいよ!なんてね。」

ハハッて笑っているお兄さんを見ると、これはモテるだろうなぁ、という関係ない考えが浮かんできた。

整った顔に、話しやすいフレンドリーな雰囲気。しかも慧進高。

まあ、私にはそういうの、関係ないけど、なんて思った。

「兄ーこの後何見ればいいと思うー?」

「んーうちの先輩でも見ていけば?」

「そっかぁ…」

「妹の水戸ちゃん、めっちゃ可愛い…っ!」

依莉がつぶやいている。うん。本当に可愛い。

「水戸ちゃんーお昼食べよう?」

「あ、うん、石川さん、ありがとっ」

3人で、ご飯を食べる。

「そういえば、水戸ちゃんさ、私のこと依莉でいいよ?ずっと名字呼びされるのなんか気になるし…」

「そっかぁ…じゃあ、えりぃ?」

「うん、私は…。そうだ!たまきって呼んでいい?」

「あ、うん。もちろんっ」

雑談をしながらお昼を食べていると、あっという間に休憩時間が終わってしまった。



14:30。第3試合が終わった。

今日初めてディベートを見たはずなのに、すっかり染まってしまったみたいだ。第3試合では、フローシートも取ってみたし(紙は環ちゃんからもらった)、議論の流れもなんとなくわかった。


これからディベートやろう!この3人で。


この想いが3人の胸に浮かんでいると思う。

この後は、決勝戦だ。今回の大会では、勝ち数が高い順、その次はコミュニケーション点が高い順、で上位2チームが決勝戦に進む。

ここまで、慧進高校は3勝。他に3勝しているチームが2つあるので、そのうちの2チームが決勝戦に進むことになるのだ。

環ちゃんのお兄さんがいるからか、2回も試合を見たからか、私は心の中で慧進を応援していた。


「発表します。決勝戦に行くチームは次の2つです。

2位、勝ち数3、コミュニケーション点 52点 駒山こまやま学園高等学校。

1位、勝ち数3、コミュニケーション点 58点 慧進高等学校。

代表の方は肯否を決めるじゃんけんをするために前に来てください。」

お、慧進が進んだ!すごいなあ、1位か…。じゃんけんで肯否を決めるのか、面白いなぁ。


「「最初はグー!じゃんけんぽい!あいこでしょ!」」

「わーーー!」

「っしゃぁ!」

「否定かぁ…」

両校から様々な声が上がる。慧進は、肯定側。と、いうことは…

「兄が出るっ…兄、頑張って…」

環ちゃんが小声で呟いている。


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