三つ目

「魔術師は未来を見る」

 英語の筆記体のような字のそれを見て、イツは肩を落とす。

 シャングリラに入って数週間経ったある日、夕陽に染まる街で彼ら二人は会っていた。

 フユトは紙を破りながら今までの事を話す。語り手の事を言うと、イツの目の色が変わった。

「そいつ、性別は?」

「知りませんが……いや、あまりにも中性的すぎて、俺には、分かりません」

 苦笑いを浮かべ肩をすくめる。

「…一応、気を付けておけ。なんか分かったら連絡する」

「分かりました。あ、依頼達成はいつになるか分かりませんので」

「おう、了解した」


 立ち去る彼を見て静かに息を吐く。路地裏に視線を移すと、黒髪の中性的な彼に近寄った。

「気を付けて、ねぇ。依頼者に言わなくて良いのか?」

「良いです。結局は達成すればいいわけですし」

 楽しげに口角をあげ、コートのポケットに手を入れる。語り手は白いキャスケット帽を深く被ると口を開いた。

「計画は、あるのかい?」

「ないです。そもそも、間取りやスケジュールを知らないのでたてれません」

「そうか…ちょっと待ってくれ」

 本_彼いわく日記帳をパラパラとめくっていく。相変わらず、フユトには分からない言葉が書かれていた。

 半分程めくった所で手を止める。雑な間取り図と共に、矢印で何かが書かれていた。

「これがあの建物の間取りだ……で、魔術師にスケジュールという概念はない。夜もどこかに行っている」

「寝込みを襲えないのか…残念ですね。この矢印は?」

「特に意味はない。気にするな」

 本を閉じカバンにしまう。厳重に鍵がつけられたそのカバンは、彼同様に異質さを放っている。

 語り手は壁と同化していた扉を蹴り開ける。鈍い音と共にそれが開くと、入るよう指で指し示した。

 フユトが足を踏み入れると扉を閉め、ペンライトで足元を照らす。どうやら急な階段が続いてるらしい。

「気を付けてくれ。僕は後ろにいるから巻き込まれはしないが、優秀な人材がこんな事で死んでしまうのは悲しいからな」

 真面目な口調でペンライトを渡す。ボールペン程の大きさのそれだが、普通の懐中電灯程の明るさを持っていた。


 ゆっくりと階段を下りていく。壁はコンクリートのようで、圧迫感があった。まるで、冥府への道を歩いているかのようだ。

「この道しか近くになくてね。シャングリラは全国規模らしいが、閉所恐怖症が泣き叫びそうな道はここだけらしい」

「…閉所恐怖症じゃなくても泣き叫びそうですが」

「それは面白い。じゃあ泣き叫んでくれよ、アサシン。ほら、喚き叫べよ。神へ許しを乞えよ! さぁ!!」

 恐怖に顔が歪んだフユトを見て、ケタケタと楽しげに笑う。

「僕の迫真の演技さ。ま、歩こう。先は長い」

 軽く彼の肩を叩く。口元を手で隠し、語り手はその後も笑っていた。

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