二つ目
扉の先の先。
その黒い扉を開けると、異質な雰囲気の人がいた。
人をダメにするクッションに体を埋めて、気持ちよさそうに眠っている。周囲には本が乱雑に置かれていた。
彼は目をパチリと開き、大きく欠伸をする。
クッションから下りてフユトに近づくと、品定めするような目で睨みつけた。あまりに顔が近いため下がろうとするが、腕を掴みさらに顔を近づける。
「…いい目だな」
いきなりそう呟くと、彼はクッションに戻っていく。
「僕は
不思議そうにするフユトをよそに、語り手は名の通り語り始める。
「職業は小説家と思ってもらっていい。趣味は読書と日記を書く事。嫌いなものは無駄に長ったらしい話だ。
ところで青年。君の目的はなんだ?」
膝の上に緑背表紙の本を開き、左手に万年筆を握る。そして、目の前のソファに座るように促した。
魔術師が腰を下ろすと、恐る恐るといった様子で隣に座る。
「魔術師は目的のある奴を集めるからな。ま、今この建物に常勤しているのは僕だけだから安心しろ。秘密は守る」
「あ、私も聴きたい。詳しくは知らないから」
顔を歪めるが、期待に溢れる眼差しに仕方なく折れる。
一つ息を吐き、コートのポケットに手を突っ込んだ。
「…
「ああ。有名だからね。最近は落ちちゃったけど」
「そうですか……なら話が早いです。俺は、そんな一族を直すために来ました」
「それだけ?」
コクリと頷く。
隣を見ると、いつの間にか魔術師はいなくなっていた。
不思議そうに語り手を見るが、驚いていない彼を見て首を傾げた。
「ま、良いけどさ。ついでに言うと、僕の目的は魔術師を殺す事だ。しかし、まだその時ではない」
「はぁ!? な、何を言って__」
「言葉の通りさ」
万年筆を白紙のページに走らせ、語り手は語り続ける。
「僕が敬愛する主の命だ。奴を殺す者を助けろ、とね。いざとなったら僕が殺すけど」
そう言うと、万年筆の先をフユトに向ける。
「君の目的も同じだろ? どうだい、共犯者にならないか? 今すぐに」
ニヤリと笑い本を閉じる。
困った笑みを浮かべるフユトの右手を掴み、紙切れを滑りこませた。
「返事はそれによろしく頼むよ」
語り手はその場を離れ、消えていく。
残されたフユトは不思議そうに、その紙切れを開いていた。
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