第4話 出会い、その者は
物を切ったり、人物を傷つけたりと、切る為の物を刃物と呼ぶならばとても昔から世界中でその刃物は作られていた。
だが特殊な製法で作られ鍛え上げられた刃物、日本の刀はその中でも特別と言われており昔に作られた刀が何十年と長い時間をその当時の形状のまま残っている。
沢山の刀職人が長い手間と時間をかけて作りあげた一振りは名刀ともなれば多くの人々にもその名前が知られている程である。
だが今回日本から異国の博物館の為に輸出された刀、それは刀を作る職人、刀工としては知名度のない者が作った一振りだけであった。
その刀工は名前さえ知る者は少なく、職人の腕も秀でた物でない、だからこそなのか‥それとも他に何かそうせざるを得ない理由があるのか、生涯でただ一振りの刀を作り上げた。
その刀工、生涯をかけて作った一振りをこう呼んだとされる。
その者は、生まれた時から自分がある種人間の理解を超える異常な存在であると理解していた。
己の風体も周りの人間とは違い、人間の持ち得ぬ力を持ち、そして生まれた経緯もハッキリと覚えていた。
だから自分の存在する理由の根源にある斬ると言う行為を行って自分を確かめていた。
己の持っている刀を一度振ればその刀身に触れる肉体はパックリと端から肉が分かれていくように斬れ桃のような鮮やかな断面からはプツプツと赤い液体が溢れてやがて勢いをつけて流れ出る。
周りの人間は自分を視認する事も理解する事も出来ず誰もその者に気付きもしない。
その者は自分の持つ刀を見つめた。
ぬらぬらと怪しく光る刀身に付着する赤い液体の美しい事。
それだけで自分の中で満たされていく感覚がした。
そしてしばらく見つめると惜しい気持ちもするが刀を振るい付着した血を飛ばすと鞘にゆっくり納めて街の中を彷徨い始める。
薄紫色の空はやがて真っ暗になり辺りの街灯はチカチカと輝きを放つ頃、その者は自分のいた場所から離れ、石畳を歩いていた。
街灯に群がる蛾を見上げて足を止め、人気のない道をまた歩き出す。
夜も遅くなると街の人々は犯人の分からない通り魔を恐れて誰も外を出歩いていなかった。
そうして宛てもなく彷徨っているとその者の目の前に大きな屋敷が現れた。
今まで自分が歩いて来た街の家々より遥かに大きく、そして中からは沢山の人間の気配がする。
ムズムズと腹の底から湧き上がる感覚に身を震わせ、刀の
大きな塀は自分が地面を蹴ると優に跳び越えられ、屋敷を改めて一望した上で二階の一番端の部屋に目を付けた。人間の気配がするのに静かで暗い雰囲気が読み取れたのだ。
他の部屋に目もくれない理由は灯りの灯った一階の大きな部屋からは甘ったるい女の声とそれに応える男の声が聞こえ、実に不愉快で気持ちの悪さを感じたからだ。
二階の端の窓辺まで跳ぶと窓縁を掴んで捕まり、鍵が掛かっていなかった窓を開け中に侵入する。
突然開けられた窓からは冷たい風が入り、カーテンがフワリフワリと吹かれ、月明りが部屋の中に入る。
幾何学模様の絨毯に足を付けて着地すると大きなベッドまで歩いていく、するとそのベッドに横たわっていた人間がムクリと起き上がった。
起き上がったのは幼い少年で、キョロキョロと辺りを見渡した後で窓から吹く風に気づいた。
大方、突然開いた窓に不安を覚えているだけだろう。
自分に気づく訳がない。
その者は柄を持ち刀を抜くと子供の元まで近づく。
「‥‥‥だあれ?」
すると幼い少年はその者の方を見据えると首を傾げて問いかけた。
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