第3話 刀のゴースト



アダルバードは街を騒がすゴーストが気になっていた。


「ゴーストってこの屋敷にも入って来れるのかな?そしたらアニータや母様や父様‥皆が傷ついたら嫌だ。‥でも、どうしよう‥恐いなぁ‥」



「‥‥ゴースト‥もし、君がこの屋敷で誰かを斬るなら、僕だけにして。」



アダルバードはそう考え込むと何かを思いついたようにベッドの脇に立てかけた杖を持ち部屋の中をゆっくり足場を杖で確認しながら歩くと

電話の受話器を取って電話をかける。


アダルバードの部屋の電話からは屋敷に住み込みで働いている召使い達の部屋のみ繋がっていて、主にアニータがそれに出るのだった。


ガチャリと受話器の向こうで相手が電話に出た音を聞くといつも通り安心出来る声が聞こえた。


「アダルバード様、どうかしましたか?美味しいお紅茶をまたご用意しましょうか。」


「ありがとうアニータ、でもううん、違うんだ。ずっと前から今日までの新聞と虫眼鏡を持って来て。」


アニータは部屋でその要望を聞くと廃棄する予定であった新聞を取り敢えず1束掴んで今日の新聞も合わせて脇に挟み、虫眼鏡を持って召使い達の部屋から出てアダルバードの部屋へと届けに行った。


「ありがとうアニータ、じゃあ僕これから部屋で集中するから夕食まで一人にしてて」


「アダルバード様?何をされるのですか?」


「秘密。」


アニータの問いかけにアダルバードは口元に人差し指を立てて笑うと扉をゆっくり閉めた。

アニータは首を傾げながらアダルバードの部屋から去っていく。


アダルバードは自分の小さな頬をペチペチと両手で叩くとやる気を出し、虫眼鏡を持って新聞に顔をかなり至近距離まで近づけると新聞を新しい日付順に順番に文字をゆっくり追っていく。


至近距離まで近づいてもボンヤリでしか物が見えないアダルバード、しかし文字位ならばアニータから教わっていた。

後は一文字一文字ゆっくり確実に集中して読めば時間はかかるが読めなくはない。


「ゴースト‥‥君が人を傷つけなければ、僕のお友達になって欲しいな‥」


勿論犯人は幽霊の類とは限らない、人目の多い所でも目撃情報が一切ない事を幼いアダルバードはゴーストだと思い込み信じていたのだ。




そしてそれから数時間が経った。登った朝日が沈もうとしていた時、アニータは小さくノックをして部屋に入ると電気を点けて部屋から去っていく。



「‥‥‥ゴーストが人を傷つけ始める前におおきな事件とかあるのかな‥事故とかあるけど‥でもゴーストとは関係ない気がする‥‥」


アダルバードは伸びをすると両目を瞑り指でそっと押さえて休憩した。


「ゴーストって、人が死んだらゴーストになるけど‥でもそれってどうなのかな?じゃあ犯人は‥‥手術とかしてた悪いお医者さんのゴースト?それとも剣の達人のゴースト?刃物が関係するゴースト‥なのかなぁ‥」


自分で呟きつつピンと来たアダルバードはもう一度虫眼鏡を持って新聞を読んだ。


「刃物が関係する‥‥ゴースト‥‥」


自分でたまたま呟いた事が思いもしないヒントとなりその記事を中心に新聞の字を追っていく。

心の中でアダルバードは探偵の気分になっていた。



「刃物‥‥の記事‥‥‥」



するととある記事が目についた。


「かたな‥‥と呼ばれる剣を輸入。」


それは余り大きな記事ではなかった。寧ろ同じ紙面に載っている強盗の方が悪いゴーストと結びつきやすいだろうがアダルバードは別にある

新しく出来る博物館についての記事を読んでいた。


「かたな‥‥、は外国の剣なのかな。博物館の為に色んな国からの骨董品を輸入している‥、‥‥これかも。」


その記事の前には正体不明の者に人が斬られる事件などは起きておらず、意識するとその記事以降にゴーストの事件が起きているように思え、アダルバードはゴーストはこの外国から輸入された刃物のゴーストなのではないかと考えた。



「剣を輸入した国は1つだけみたい。その国の名前は‥‥‥‥」


アダルバードは文字を読みすぎて疲れた目をゴシゴシと擦りながら食い入るようにどの国かを見た。


「日本‥‥‥。」


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