第7話 誰もいない街(後編)

「いたーい。やったなー。今度はオイラの番だー」

 カイがそう軽い口調で言うと、途端に小さな猫の身体が盛り上がる。上半身の虎の模様がハッキリと表れ、筋骨粒々とした体躯、なたの様な爪、ナイフのごとき牙が出現する。牡牛ほどの巨躯はまさしくぬえだ。

「グルウァァァァ!!!」

 腹に響く咆哮ほうこうと共に、小男に飛びかかる。


 ザクッ ゴリッ

 肉と骨をえぐる爪と牙の音。噛みつき、引き裂く。

 小男の身体からは、たちまち真っ赤な血が、おびただしく流れ出す。

「ぴぎゃぁぁぁああぁぁ」



 伸ばした首を戻し、傷口を押さえて苦しむ小男。その隙をついて、真奈美がをかける。

「爆!」

 ドムンッ

 身体の内部から破裂させる真奈美のが、鈍い音を小男の身体の中から響かせた。

 ごぷっ

 赤黒い血液を口から吐き出し、悲鳴も止まった。


 そして俺は…。

「こっちだ」

 俺は背後に立ち、声をかける。

 小男が俺の方に向くと同時に、

 ドス ドスッ

 足元の影を操り、ナイフのように鋭くして小男の脇腹に突き刺す。死角を付いた不意討ちに、小男の動きが止まる。

 そして俺の両手には、一本ずつの短剣。その短剣を高速で振り抜き、斬撃を加える。


ドチャ…

 首・肘・腹・膝、すべてが切り裂かれ、為す術無く小男は倒れた。






「…。消えた…か」

 小男が倒れると同時に、命令を下したミラーシェードのサングラスをかけた男が居た所を見るが、すでにそこには影形も無かった。

「とりあえず、こいつを連れて帰るぞ」

 横たわる小男の襟首を掴んだ瞬間、


ボンッ


 と、小男の身体が弾けたのだ。

 辺りに血飛沫が飛び散り、形も不明瞭な肉塊になった。おそらく証拠隠滅だろう。

「ひっ…」

 こういう光景を見慣れたであろう真奈美ですら、その凄惨さに小さな悲鳴あげる。無理もない。電車に轢かれたかのような櫟死体そのものなのだから。

「ちっ…。ここは警察とかに任せて、俺たちは一旦引くぞ」

 俺は考えを切り替え、踵を返した。

 更なる面倒事を思うと頭が痛いが、今は引く時だ。後で調査員を派遣し警察に情報を提供してもらい、ああそれから竜胆りんどうなどのブンヤに話を聴くのも忘れないようにしないと。


 ひとまず危機は去った。だが、問題はまだまだ続く。なぜヤツらは俺たちを襲ったのか。

 

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