第4話 新たな展開『行方不明』

 あの病院爆発から4日が経ったこの日、いつもの通りに仕込みが終わり、カフェ『ダテーラ』は営業を始める朝になりました。

「あ、ガウルさん。紅茶の補充は用意できてるから」

「わかった」

 カランカランカラン!!!

 そんな時、けたたましくお店のドアベルが鳴って、一人の女性が飛び込んできたわ。


「ガウルぅぅぅ。結婚しt

 コンッ

 ガウルさんの持っている銀盆が縦に、飛び付いてきた女性の眉間を正確に打ち込んでいたの。突然の事で、あたしもちょっと引いたわ。

「が…ガウル、やるわね…」

 懲りない人だなぁ。あーあ。痛くてうずくまってる。

 この人は松原まつばら 竜胆りんどうさん。あたしたちが住むこの県の、地方新聞の編集部にいる記者さんなの。本人曰く『ブンヤ』だって言ってるわ。


 竜胆さんはやっと痛みが引いてきたのか、ゆっくり立って、ヨロヨロしながらカウンター席に座ったわ。

「と…ともかく、ロイヤルミルクティーを…ちょうだい…」

「わかった」

 ガウルさんは意に介さず、ミルクティーの準備をする。

 手鍋に沸かしたての熱湯を注いで、いつもの倍の量の茶葉を入れる。今回は、いちごフレーバーの紅茶ね。

 ふたをして3分待ったら、たっぷりのミルクと砂糖を入れる。

 そうだ、カイくんにも分けてあげたいな。

「ガウルさん、カイくんの分も…」

「そう言うだろうと思って、多目に作ってある」

 あ、わかってたか。さすがだわ。

 そして強火にして、沸騰したら火を止めて1分待つ。濾しながらティーポットに注いで、出来上がり。ガウルさん、手際がよくなったなぁ。

 少し分けてもらい、カイくん用の小さなコップに移して、テラスのいつもの場所に持って行く。香りに反応して、カイくんが出入口で待っててくれた。

「わー。みるくちぃー」

「熱いから、気を付けてね」

 足元に置いたカップから、美味しそうに熱そうに、ペロペロとミルクティーを飲み始めたわ。


「で、お前がここに来るのは、決まって何かある時だ」

「ふふっ、わかってるじゃなーい。そういう所、冷たくてス・テ・キ」

 語尾にハートマークが付くような抑揚で、竜胆さんが話し始める。

「最近、他県からこの市に来てる人の中で、二人、行方不明になっているそうなの。でも、身元が不明瞭で捜索願いも出されていないそうよ。警察も表だって動いてないし、何かあると思っているわ」

 いきなりキナ臭い話題になって、口調も真剣。まさしくブンヤの顔ね。

「で、俺たちに何か知ってる情報がないか、聞きにきた。そういう事か」

「話が早い人ってスキよ、ガウル。ねぇ、何か掴んでない?」

 ガウルさんが私に視線を送る。もちろんあたしも知らないお話だから、黙って首を横に振ったわ。

「残念だが、俺たちでも初耳だ」

「そっかぁ。何かわかると思ったんだけどなぁ。はぁ」

 少しぬるくなったミルクティーをゆっくり飲みながら、竜胆さんはため息を漏らしていた。


「じゃ、あなたたちの方でも何かわかったら、情報をお願いね。私でも情報を掴んだら、連絡するわ」

 竜胆さんも、あたしたちの事情は知ってるの。だから、色々と情報をやり取りしているわ。

 でも今回のお話は、ちょっと突然で吃驚したわ。


「そろそろ仕事に戻らないとねぇ。ガウル、次に来たら、ちゃんと熱い接吻ベーゼをおねg

 ぱぁん!

 ガウルさん、容赦なく銀盆で竜胆さんの頭を叩いちゃった。いい音したわ。




***



 その日の夜、あたしは行方不明の人たちの事を調べるので、バックヤードのパソコンでネットに潜っていたの。

 ひとりは普通の会社員、もうひとりは自営業。年齢も違うし住んでる所も離れている。両方とも、男性で独り暮らし、そんな所しか共通点が無いわ。

「むー、わからないなぁ。行方不明になった所も、県内の離れた所だし。関係ない事件なのかなぁ?」

「真奈美、店の片付けは終わったぞ。…む、昼間の竜胆の話か」

「そうなの。何か引っ掛かるから調べてるんだけど、共通点が無いのよ」

 ガウルさんもパソコン画面を覗いてくる。二人して首をかしげてるわ。


「すまんのぅ、店を空けたままで。店のシメまで終わってしもうたか」

 そんな時に、店長が帰ってきた。店長もパソコンの画面を覗いたの。そうしたら吃驚した顔になったわ。

「な…。彼らは、ウチの組織の職員じゃぞ。なぜ行方不明に…」

「ええっ! そうなんですか?」

 すぐに組織のデータベースと照合すると、店長の言の通り、職員としての登録情報が上がってきたの。

「何らかの事件に巻き込まれた可能性が高い…な」

 淡々とガウルさんが語る。

 イヤな予感しかしないわ。

 あたしたち三人は、顔を見合わせて押し黙ってしまった。


 もう、これは緊急事態だわ。何が起こっているのか、急いで調べないと。

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