第3話 報告
ぺしゃぺしゃ
「ぷはー。口の中のじゃりじゃりとれたー」
カイくんは水を舐め取って、口をゆすいでスッキリしていたわ。
そしてあたしとガウルさんは、店長に事の顛末を報告し始めたの。
「俺が潜入した時には、既にもぬけの殻だった」
ガウルさんはいつものように淡々と話し始めたわ。
「研究室とおぼしき地下室の広さは15畳ほど。あまり広くはなかった。持ち出せる機材は持ち出し、残りは証拠が残らないよう、基板などが破壊されていた」
「ふむぅ、儂らの事が漏れていたのかのぅ…」
あたしは、店長の言葉に反論したわ。
「昨日今日の依頼がすぐに漏れるとは考えにくいわ。情報が漏れるとすると、大元からかしら?」
「それから、他に何か見たものはあるかね? 些細な事でいいんじゃ」
店長がガウルさんに先を促す。
「そう言えば…。研究室奥の中央、爆弾が設置されていた所の上に、培養槽があったが…」
ガウルさんが言い淀む。
「どうしたの?」
「もし『例の組織』が関わっているのなら、人ひとりを培養させるなど容易だ。しかし今回の研究室では、培養槽は…そう、人の頭部くらいの大きさしかなかった」
「どういう事じゃ?」
「今にして思えば、あまりに実験機材が少な過ぎる。以前に見た事のある所なら、もっと機材は規模が大きかった。…何か違和感がある…」
ガウルさんの話を聞いていただけだと、まだ何も確定的な事は言えないけど、確かにおかしい。あたしたちの行動が読まれていた事も。
「なんだろう…。もっと何か違う事が起こってるような…。ああもう、情報が少な過ぎるわ」
あたしは独り言をつぶやく。もう少し情報があれば、何が起こっているかわかるのに。
「ともかく、日本支部へ連絡じゃな。それと、秘書の方にも言っておかんと」
少ない情報でも、報告を上げておくのは当然よね。一旦お話は保留にして、店長はバックヤードに入って行った。
***
「例の爆破の件はどうなったかね?」
「はっ。途中まではうまく引き込めましたが、後一歩の所で逃れられました。申し訳ありません」
「ふむ。『あちらの組織』としては、まずまず有能という事か。それで、例のモノの所在は?」
「はい。現在の所、調査中であります。私と『ストマック』で関係者を尋問してはおりますが、良い情報は浮かんでは…」
「…。引き続き調査を続行したまえ。アレは、どうしても手に入れなければならないのだ。私のためにも、君のためにも」
「承知しております。全力で調査を致します」
「良い結果を期待している」
暗闇に響くのは、電子音で作られた男の声と、それに答える慇懃な男の声だった。
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