不思議のアリスを暗殺する3つの武器

ちびまるフォイ

鼻につくほどの甘い暗殺

「不思議の国へいって、アリスを暗殺してほしいんだ」


「アリスを?」


「君ならできるはずだ。かの有名な武器無し暗殺者の君なら」


「高くつきますぜ」


「ああ、報酬ははずもう。ところで、これは好奇心で聞くんだが……。

 武器を使わずにどうやって暗殺を成功させてるんだ?

 君の体はお世辞にもマッチョとはいえないし……」


「おっと、それ以上は企業秘密です」


特別に自分の身体能力が優れているわけではないが、これまでこなした暗殺依頼はすべて完遂している。

依頼者の死体ひとつ見つけられなくなるほどに跡形もなく。


「よろしく頼んだよ」


「少女ひとり殺すのなんてわけないですよ」


翌朝、不思議のトンネルからアリスの国へ向かった。

誰もが思い描くようなエプロンドレス姿で金髪のいたいけな少女……。



「全員そこにひざまずきなさい! 私に逆らうものは処刑よ!」


イメージ通りではなかった。


アリスは不思議の国の覇権を握って、キュートな少女から暴君へと変貌した。

権力にはこれほど人を変える力があるのかと思ってしまう。


「よし、さっそく暗殺に移ろう」


狙撃できないかと場所を探すとトランプ兵がすっ飛んでくる。


「怪しい奴! そこで何をしている! 処刑するぞ!」



アリスの食事に毒物をまぜようと毒草をあさっていると、トランプ兵がすっ飛んでくる。


「そこで何をしている! 処刑するぞ!」



ご飯を食べようとしてると


「貴様! なにをしている! 処刑するぞ!!」


やっぱりトランプ兵がすっ飛んできて、城周辺で息をすることすら難しい。


「これはまいったな……」


作戦をかえて、今度はどうどうと城の中へ入ることにした。

丸腰で華奢な男ひとりなので、トランプ兵も通してくれた。



「私がアリスだ。貴様、私になにか用か?」


アリスは玉座に座って年齢に相応しくないほどの威厳をまき散らしている。

城の警備は厳重で、ひとりで突破するのはとても難しい。


となればやることはただ一つ。


「実はアリス殿下に大事な用があってまいりました」


「なんだ? まさか私が暗殺対象になってるとか?」


「いえ、そうではなく、結婚の申し込みが来ているとお伝えにあがりました」


「結婚ん? どんな奴だ?」



「俺です」


「え」



「結婚してください、アリス殿下」


「ふぇぇぇ!?」


アリスは顔を真っ赤にしてしまった。


「貴様! アリス殿下になんてことを! ええい! であえであえー!」


トランプ兵があっという間に集まって槍の穂先で俺をぐるりと囲む。


「ま、待て! トランプ兵ども、さがれ!」


アリスの指示にトランプ兵は不思議がりながらそっと槍を引く。


「その……私を好きとは……どういうことだ?」


「アリスさまの幼くも凛々しいお姿と、優美な立ち振る舞いに感動しました。

 でも、今日は俺の気持ちを伝えに来ただけですのでこれでお暇します」


「あ、ちょっと……!」


ここで前職のホストの経験が役に立つ。

周りに厳しく接している人間ほど、とっさのアドリブに対応できない。

アリスの心に打ち込んだ恋のイカリはだんだんとアリスの気持ちを引き込んでいった。


何度かアリスに城に呼ばれるようになると、わずかずつだか距離を詰めていった。


「あの……貴様は好きな食べ物とか、あるのか?」


「殿下が好きなものが俺の好きなものです」


「そ、そういうのではないっ! 本当に好きなものだっ」


「そうですねぇ……しいていうなら、殿下、でしょうか」


「はわわっ! か、からかうなぁ!」


アリスとは非モテの作者がパソコンの画面をパンチするほど、甘ったるい時間を過ごしていた。


武器も持っていなければ殺せるだけの身体能力もない俺に

だんだんと警備の手は緩んでいった。


そして、暗殺決行の日が訪れた。


「殿下、今日は俺から頼みがあるんです。少しの間一緒に寝てほしい」」


「なっ! なにをハレンチなっ……」


「ダメですか」


「…………いやとは言ってない」


二人で布団に入った。暗殺決行。



バン!!



寝室の扉が開けられると、鬼の形相をした白雪姫がやってきた。


「あんた、わだすの夫を寝取るなんていい度胸しどるわね!!」


ついで、目を血走らせたシンデレラがやってくる。


「ねぇ……何してるの……? そこの泥棒猫……死ぬ? 死ぬの? ねぇ」


最後に、顔を頭巾よりも赤くした赤ずきんが入って来た。


「キャハハハ! みーの夫を寝取る女をハチの巣にしにきたよーー!!!」



3人の元暗殺対象兼嫁たちが俺の優秀な暗殺武器。

持ち込みもばれずに、高い戦闘力をほこる懐刀。


「「「 ぶっ殺す!! 」」」


3人がアリスを手にかける瞬間、俺は身を挺してアリスをかばった。


「待ってくれ!」


「お兄ちゃん(?)どいて! そいつ殺せない!」


「実は……これは俺の意思なんだ……。

 借金を抱えさせられて、不思議の国へ来て、アリスに相談していたんだ……」


「そうなの……?」


「みんな、俺のために助けてくれないか?

 ……いや、やっぱりよそう。みんなは俺の大事なフィアンセ。

 これ以上人殺しで手を汚させるのは……」



「「「 大丈夫、その親玉を殺してあげる!! 」」」


3人の返事のあと、アリスを振り返った。


「ありがとう、そしてさようなら、アリス。

 君に言った言葉に嘘偽りがないことだけは信じてほしい。

 それじゃあ、俺は元の暗殺者に戻るよ」


俺と3人の凶刃たちは城をあとにした。

その後ろをアリスが追いかけて来た。


「待って! 私もいく!! 貴様にこんな汚いことをさせる悪い奴を、私も殺してやる!!」


「殿下……!!」



かくして、チョロくも鋭い俺の暗殺武器が1つ増えた。

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