ダリアが咲く頃に 【1/18追加】


俺と、姫様が一緒に嫁いだのは、姫様が10歳、あの野郎が12歳、俺が16歳の時だった。

姫様は、まだまだ婚約の意味も分かっていなかったし、あいつもそんなそぶりを見せなかったしで、姫様の中にあったのは、不安と絶望だったと思う。

なんせ、あの野郎は、すでに国政に興味を示しているとか何とかで、姫様の迎えにすらやってこなかったのだから。自分の知り合いは俺だけ、というなんとも悲しい始まりだったのだから、仕方がないっちゃ仕方がない。

せめて何か特技を、と裁縫は異様にうまくなったけどまだ10の少女に自信を持ってなんて言えるわけもない。


愛娘でれでれだった王は、こんなに早くなくても、とかなり渋っていたが、王子たっての希望とやらに負けて手放してしまった。

お前が希望した割には来ないのな、と嫌みの1つくらい言ってやりたいのだが、何せ本人がいないということで非常にやきもきしていた。


「…アジーン、私この国に歓迎されていないのかしら。」

彼女は自分に対する負の感情に非常に敏感だ。

「んなわけないでしょう。あの野郎がせかしたんだ、みんな待ちわびていたに違いないですよ。」

「そっか…そうね。アジーンの言うとおりだわ。」

一度自信がつくと突っ切ってしまうところも彼女のらしさといえばらしさで、ちょっと気が強いのもかわいいものだった。


部屋も割り当てられ、そわそわと落ち着かないから、あいつの部屋にいってみるか、と提案したのは、俺だ。俺なのだが。

「…何できた。」

行きたい!とうれしそうに飛び跳ねた彼女に内心複雑だった俺の予想をぶった切って最低な切り返しをしてくれた馬鹿王子にあきれることしかできなかった。仕事中とはいえ、12歳にできることなど目に見えて少ないはずなのに、無駄に背伸びをして彼女を傷つけるなんて良い度胸だ。

姫様も一瞬見せた本当に、本当に悲しそうな顔を引っ込めてわなわなと怒りに震えていた。

馬鹿な提案をしたとはいえこれはないだろうとぎろっとにらみつけたら、にらみ返して来やがった。いい睨みきかせるようになったじゃねえか。


「なんでもないわ!一応来たから挨拶に来ただけよ!!」

フン、と鼻を鳴らして帰るわよ!と言うと回れ右をしてしまった。

馬鹿王子もぽかんとしている。

彼女の強情なところは初めて見たのだから当たり前だ。

年相応のかわいらしい外見とは裏腹に姫様は非常に気が強く、強情で意志が固い。

「あんたが呼んだから来てやったんだから感謝しなさいよね!!」

「あ、ああ…」

剣幕に押されて間抜けな顔をさらしている馬鹿王子がおもしろかった。


…でもまあ、彼は無口で無愛想だが、評判の悪いやつでは無いはずなのだが…

さっきのは照れ隠しにしろ、何か思うところがあるのかも知れない。

まあ、姫様には言ってやらないけどね。


「…泣かないで、姫様。」

「泣いてなんか無いわ。いやなやつのところに来ちゃったって思ってるだけよ。」

今にも泣き出しそうな顔をしているくせに、こんな強情になっちゃって。

誰に似たんだか。


「ねえ、姫様。俺思うんですよ。」

「…何?」

「今俺と姫様の二人っきりですよ?それって楽しいと思いません?」

「父様も母様も、ラウラも兄様も姉様もいないわ、楽しくなんか無いわよ。」

俺と対で姫様につきっきりだったメイドの名前が出てきた。

もちろん、こちらにメイドはいるからゆるされなかったが。


「違いますよ、フィオーレと違って本読み過ぎとか裁縫やりすぎとか、料理へたくそと怒る人もいないんですよ。自分の部屋には誰も入ってきません。」

「えっ…そういえばそうね…」

姫様の母…王女様はそこそこ厳しい人、というか常識人で、何事もやり過ぎはよくないと非常にまっとうな方だった。

何せ姫様は、食事やお風呂もめんどくさくなるほどの熱中癖がある。


きっと今は、それでいい。


「それに、一人じゃないじゃないですか。俺がいますよ、俺が。」

「…そうね、アジーンがいるわね、うん。大丈夫ね。」


こうなった姫様は強い。

大丈夫だよ、俺がいる。ずっとずっと、姫様が寂しくないように。

本当に、このときはそう思っていたんだ。


ごめんね、姫様、このときちゃんと言っておけば、俺がいなくなっても寂しくなんかならなかったんだろうね。

でも、俺の方見ててほしかったんだ。ごめんね、姫様。


大好きだよ、誰よりも。

俺を救ってくれたあなた様を一番近くで守らせてほしかっただけなんだ。


君が壊れてしまうなんて思ってもいなかったんだ。











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