アザミの姫が笑う

「おまえ、メリ様に気があるのか。」


初めてあいつに会ったのは、フィオーレ、彼女の母国で見合いのようなものをしているときだった。私は5歳、彼女はいくつだったか、私よりは幼かった。

何にしてもまだまだ幼いときだったが、とてもはっきりと覚えている。

子供達は外で遊べと庭に追い出されたはいいものの、メリは俺に全く興味を示さず本を読んでいたから非常に気まずかったのだ。


それに、人に明確な殺意をここまで向けられたのは生まれて初めてのことだったから。しかも今日あったばかりの年上の、立場も下の従者に。

そして、どきりとした。一目惚れだったから。


「クラワとか言ったか?貴様にメリ様は任せられない。」


顔にわかりやすく出たのだろう、真顔で真っ向に否定されて固まった。

一目惚れした相手の従者にまさかそこまでの殺意を向けられるなんて思っていなかったから、かなりのショックを受けた。


「…なんでおまえにいわれなくちゃいけないんだ。」

「私はメリ様の従者で、彼女にずっとついていく。その際に俺も彼女の伴侶を選ぶ時くらい口を出させてもらうさ。」


精一杯の反撃が、見事に打ち返されてどうしたらいいのか分からないし、負けたくない詩でぐるぐると思考を巡らしていた。

口元だけにやりと笑った彼は、どこまでも子供で、大人だった。

でも、彼女を見守る目元は優しくて、本当に強いんだと痛感した。


「なに、おまえが心配しなくても俺が彼女を幸せにする。」

「いやだ!じゅうしゃになにができる!!」


そして、僕もちゃんと子供だった。何となく言ってはいけないと分かっていたのだけど、これしか彼に反撃できる術を僕は持っていなかった。

あいつはとても苦い顔をした。

といっても、この段階で、遊べと言われて一人で本を読まれる僕に何ができるという話なのだが。


「ぼくがメリをしあわせにするんだ!」

「…できるもんならやってみな。彼女は俺に心酔しているからね。」


にっこりと笑った彼は、どこまでも勝ち誇っていた。


その言葉は、今痛感している。


彼女は、あいつに、彼に心を奪われて持って行かれているのだから。

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