第48話 暗闇
「私がやってみる。寛斎さんは休んでて」
宮子はポケットから小型ライトを出してつけ、肩で息をしている彼に近寄った。ライトを地面に置き、
まぶたを閉じ、闇の中に白い光の粒を集める。
「
この
観念の中で力を発動させているのに、体中に負荷がかかる。地面にめりこんでしまいそうなほど、ずしりとした重さがのしかかり、汗が噴き出る。
やはり、びくともしない。
宮子は別の神を観じた。ここへ来たときと同じ、
「
白い光の粒が、巨大な二本の腕を形作る。
激しい立ちくらみがして、宮子は地面に倒れ込んだ。光の腕が四散する。
やはり、鈴子の文字を
「宮子、大丈夫か」
寛斎が、肩に手を置いてのぞきこんでくる。心配させてはいけないと、宮子は上体を起こして座った。
「ごめん。ちょっと、疲れてたみたい」
「無理するな。……少し休もう」
そう言う寛斎の声も、疲労を隠し切れていない。ひんやりとした空間に、彼の声がぽつりと響いた。
「巻き込んで、すまない」
まるで、もう帰れなくなったような言い方だ。弱音を吐くなんて、彼らしくない。うつむいて地面をにらみつけている姿が、ライトのわずかな光で浮かび上がる。宮子は、彼が負い目を感じないよう、明るく答えた。
「勝手に来たのは、私なんだから。桃果ちゃんと鈴子は無事に帰れたんだし」
黙っている彼に、さらに続ける。
「回復したら、二人同時に術をかけてみようよ。そしたら、動かせるかもしれない」
大丈夫、と自分自身にも言い聞かせるよう、念を押す。ん、と短くうなずいて、寛斎が唇だけで笑顔を作った。
二人は無言で座り続けた。体をできるだけ小さくして、体力を温存する。お互いの息づかいと、ときおり体を動かす音が、やけに大きく響いた。
膝をかかえて丸くなっていると、何も考えないでおこうとしても、さまざまなことが頭に浮かぶ。
たとえ休んでも、ここにいる限りは、飲食でエネルギーを補給できない。時間がたてばたつほど、力は失われていく。いくら法術が使えても、相手は千人の力でやっと動く巨岩だ。まして、寛斎は罪悪感にとらわれて、本来の力を発揮できない。
もう、限界なのだ。
――じゃあ、ここでこのまま。
生身の人間である以上、ここから出られなければ、餓死するしかない。もしくは、稲崎のように、自ら
命の終わりを意識したとたん、自分の体が闇に溶けて消えてしまうような気がした。腕に力を入れ、膝を強くかかえる。まだあたたかい。まだ生きている。
背筋に震えが走り、歯がカタカタと鳴り出す。自分がここにいることを確かめていないと、闇に呑みこまれてしまいそうだ。
――怖い。
暗がりの向こう側に、得体の知れないものがうごめいている気がする。あれは、闇と同じ色をした
宮子は、地面に置いたままのライトをつかみ取った。立ち上がり、坂の下を照らす。一筋の細い光は闇に吸い込まれ、途中で霧散した。
虫はいない。けれども、漠然とした不安が膨れ上がり、押しつぶされそうになる。
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