第23話 祖霊
白衣の袖をひっぱり、宮子はおそるおそる訊ねた。母はそれには答えず、うなずくように笑みを作る。
「ちょっと、お父さんのお仕事、見に行こうか」
立ち上がった母の後ろについて、座敷を出る。
渡り廊下から社務所に入ると、
ついてきて、と母が身振りで示す。待合室がわりの座敷から、そっと神殿へ入る。板の間に正座して祭詞を読み上げる、父のまっすぐな背中が見える。
「今日は、
五十日祭とは、仏式でいう四十九日にあたり、故人が現世を離れて
「宮ちゃんは、お母さんに似てしまったから、見えちゃうのよね」
母の声は、父には聞こえていないようだ。宮子たちの気配にすら、気づいていない。まるで誰もいないかのように、黙々と祭祀を執り行っている。
「不思議に思ったことはない? 四十九日や五十日で、死んだ人は
宮子は、母を見上げてうなずいた。
「これはあくまで、お母さんや宮ちゃんが認識している世界の話ね。別の世界には、別の
母の声に、父の
「
しぬ、と言ったときの声色が冷たくて、宮子は身震いした。
「
ときどき前世の記憶を持つ人がいるのは、
「じゃあ、
訊ねると、母はとなりにかがみこんで、宮子の頭をなでた。
「
視線で指し示された方を見る。
「
老人が、少し寂しそうに微笑み、うなずく。
そのとたん、神殿の扉が開いた。目を開けていられないほどの、強烈な白い光が満ちる。
思わずまぶたを閉じたのに、目の前の光景が頭に直接入ってくる。父は光が見えないのか、まったく動じずに
老人の姿が、光に呑まれ、かすんでいく。
ぽん。
老人の姿が消え、黄味がかった白い光の玉になった。
それは、しばらく父の周りを回ったあと、神殿の扉の奥へ飛んでいった。光の玉が、白い光に溶け、一体となる。
ばたん。
扉が急激に閉まり、光が消え去った。
おそるおそる目を開けると、ちょうど
あの老人は、もういない。
「
老人は光の玉となり、巨大な光に同化した。
「怖い……」
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