第18話 羨道
「稲崎は、死んだ婚約者に会いたいから、
鈴子が新しい紙に「
「あのとき稲崎さんは、トンネル状のものじゃないか、って言ってた」
「宮姉ちゃん、
「比定地としては、
鈴子がカタカナ混じりで地名を書き入れる。
「どっちも島根県か。じゃあ、稲崎がどうして奈良県桜井市に現れたのか、わかんないよね。まあ、桜井にも出雲って地名はあるけど」
「島根出雲と同じで、『出雲』は死に近い場所を意味しているって説があるの。桜井名産の出雲人形は、お墓に埋める埴輪が元だし。その埴輪も、元は殉死させられた人間の身代わりに作られたものだから、死の色は濃いよね」
紙に「出雲=死の象徴?」という文字が加わる。
「ほかに
「これは稲崎さんにも言ったんだけど、『日本書紀』の一説には、『
「生と死の境界、か。そういや、古代では、お産のときは
鈴子の言うとおり、
「生まれさせる」ではなく「
「タブーというより、生死は神様が支配なさることだから、人間はつつしみなさいって意味だったのかもね」
喪と産は、対になっている。
古代、太陽は西に沈んだあと、「
なんにせよ、異界への出入り口、生と死の境界は、稲崎の予想通り、「トンネル状」なのだ。
置いてあった『古事記』訳本をぱらぱらとめくっていた鈴子が、紙に「
「お姉ちゃん、
「ダンジョンって言っちゃうと、とたんに拍子抜けするじゃない」
小さく笑いながらも、宮子は思い出した。寛斎が会いに来た朝、カラスたちが「
「トンネル状の暗い穴を、石でふさぐ、かあ。何かに似てるんだけどな」
ペンを回しながら鈴子がつぶやく。死者たちのいる、暗い穴。トンネル。横方向にのびる、せまい通路。
「あ、そうだ」
宮子は小さく机をたたいた。
「
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