その097「友達10」

「少年! 少年!」

 姉ちゃんと冷戦状態になって数日。

 事務所でのレッスンが終わっての帰り道、誰かが僕のことを呼ぶ。

「……あ、神様、久しぶり」

 神様だった。学校帰りなのか女子制服姿だ。……本当に学校通いしてるのか。

「なんじゃ、主に叱られて日課の散歩を拒否する拗ねわんこみたいじゃな」

「そういう神様は上機嫌だぞ」

「ククク、学校の部長会議で部費のアップが決定したからのう」

「そういえば、部活の部長をしてるんだっけ」

 神様が高校生活を送っている理由は今も謎だが、あまり聞く気になれない。

「まあ、部の繁栄は、お主の姉の貢献もある」

「姉ちゃんの?」

「頭がいいし機転も利く。今や、部にはなくてはならない人材じゃ」

 ……頑張ってるんだな、姉ちゃんは。

 でも、そんな姉ちゃんと、僕は――

「少年も最近、各方面で活躍しておるようではないか。我が校でも話題になっておるぞ」

「それは……まあ、やれることを、全力でやってるだけだぞ」

「む、どうした少年? 何やら浮かぬ顔をしておるが」

「う……」

「悩みがあるようであれば、我が聞くぞ」

「……ん」

 町の神様ならあるいは、と言う思いで。

 今抱えてる悩みを、神様に話してみた。姉ちゃんと喧嘩をしてしまったことまで含めて。

 結果、


「なんじゃ、そんなことか」


 拍子抜けしたような反応が帰ってきた。

「そんなことって……」

「簡単なことじゃ。お主の姉が、少年と離ればなれになりたいか? なりたくないに決まっておるじゃろう」

「な……」

「ただ、お主の願いの足かせになりたくなかった。それだけのことじゃ」

「それは」

「お主が悔いのない選択をするなら、あやつはどんな結果だろうと受け入れたろうよ。じゃが、今のお主だと、どちらの選択をしても、双方に悔いが残るぞ。その後悔の原因を姉に押しつけようとするなど、お主阿呆じゃろ」

「――――」

 頭を金槌で殴られた心地だった。


 そうだ。

 僕が、誰かを笑顔にしたいと思ったのは――


「……神様、容赦ないなぁ」

「迷うのは結構。相談で後押しをもらうも良し。じゃが、道を決めるのは自分自身と知れ」

「うん。――ちゃんと、僕自身で決めるぞ」

 ……流石は神様、と言うべきか。

「神様」

「ん?」

「僕、神様と友達で、よかった」

「ククク。もっと我を崇めるがいい。そして――」

 神様は柔らかく笑って、


「お主の欲望を、我がために使え」

「……うん!」


 僕は神様に改めて感謝をして。

 そして、言った。


「いってくるっ!」

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