その098「一緒」
「姉ちゃん姉ちゃん!」
今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぶんだけど、
「…………」
スルーされてしまったぞ。
でも、
「事務所から、今度発売のデルタ☆アクセルの新しいグッズ貰ったけど、姉ちゃんは要らn「早く言いなさいよっ!?」
その音速反応は、冷戦時も鉄板だぞ。
「あ……ひ、卑怯よ。物で釣るなんて」
「しっかり貰っておいて、非難されても」
「そ、それよりも、数歩引いた距離で付いてくる野良わんこのように呼んでくるってことは……話、あるんでしょ」
「うん。この前言ってた、デビューの話」
「――――」
姉ちゃん、それを聞いて、身を強ばらせるも。
「実は、まだ決めてないんだけど」
「え、そうなの?」
「ただ、思い出したことがあるんだ」
「思い出したこと?」
僕は頷いて、
「誰かを笑顔にしたいと思ったのは、姉ちゃんを笑顔にしたいからだって」
「え?」
「僕は、姉ちゃんとずっと一緒に居たいから」
「な……!?」
「そのためにどう頑張ればいいか。そこから考えたいなって」
「――――」
「そのくらい、姉ちゃんが――」
「ストップ! ストーップ!」
「大切だから……って、どうした姉ちゃん」
「…………」
姉ちゃん、顔を背けたまま、一分ほど呼吸を繰り返して。
「……はぁ」
やっと、落ち着いたかと思えば、
「お?」
――僕のことを、抱き締めた。
「私だってあなたと同じよ。ずっと一緒に居たい」
「…………」
「あなたはきっと大きくなる。手の届かないところまで行っちゃう。それがずっと怖かったのに……あなたにとってそれが良いって、素直になれなくて」
「姉ちゃん」
「でも……あなたがそう想ってくれているなら。この先、どんな決断をしても、私は受け入れられるわ」
「そっか」
姉ちゃんの潤んだ瞳に、僕は笑顔で返して、
「姉ちゃんと、お父さんやお母さんと、友達と、町の人達とも、ずっと一緒に笑顔で居るために、僕は頑張るぞっ」
「え?」
姉ちゃん、何故か固まった。
「私と、あれ?」
「だから、姉ちゃんや皆のために頑張るんだけど」
「そういう、こと?」
「それ以外に何が?」
「…………」
姉ちゃん、しばらく停止して。
「――!」
黙って僕を部屋から追い出した。
「ええ!? なんで!?」
『ごめん、一人にさせて……』
「姉ちゃん?」
『なんで、私だけのためって勘違いしちゃったの……!』
「え? よく聞こえなかったけど?」
『うっさい! 馬鹿な私を放っておいて!?』
……よくわからない姉ちゃんの引きこもりは、翌日まで続いたぞ。
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