その095「話」

「ゴリP! ゴリP!」

 今日も今日とて僕は、担当プロデューサーことゴリPを呼ぶ。

「主人を喜ばせるための芸を、もう少しで習得しそうな段階のわんこ具合だな」

「今日もレッスン頑張ってきたぞっ!」

「うむ、トレーナー殿からも好評を頂いている。その調子を持続させろ」

「おうっ! そのために後でジュース奢ってくれっ!」

「調子に乗るな、たわけ! ……と言いたいが、前回の公演も良かったし、特別に奢ってやろう」

 ゴリラのような大きな体格、厳しように見えて優しいこの人とは、初対面の時からわりとウマが合う。

「で、ゴリP、話があるってきいたけど何だ? 次の仕事か?」

「そのしっぽ振りながら餌を待つわんこモードは和むからやめろ。今回は真面目な話だ」

 ゴリPは頷いて、

「おまえに、スピプラでのデビューの話が持ち上がっている」

「よし、やって……ん? スピプラ?」

「スピプラ」

「スピードプラネット事務所? 本社で?」

「本社だ」

「え、えええええっ!?」

 流石に驚いた。これ、かなりのスピード出世だぞ!?

 ゴリPも苦笑気味で、

「まだ話が纏まっていないがな。おまえの最近の活躍は、本社内でも評判だ」

「お、おう……」

「まだ荒削りだが、この小さな系列事務所でなく本格的なステージへ移れば、ますます大きくなるだろう。俺も前向きに考えている」

「……ゴリPにそこまで誉められるの、初めてだぞ」

「茶々を入れるな。で、この件、おまえの意志を聞いておきたい」

「もち――」

 答えかけて、僕は詰まる。

 言いようのない予感が突き抜けたから。

「ゴリP、本社ってことは、都内での活動になるよな」

「そうなる」


「つまり――引っ越さないといけないのか?」


「……そうなる。住居は系列の男子寮に、学業も都内の学校に転校となる」

「――――」

 予感の通りだった。

 ゴリPは既に察しているようで、

「親元を離れるのは耐え難いだろうし、慣れない環境に苦労もするだろう。だが、おまえにとってはまたとないチャンスだ。これを逃すと、いつやってくるか正直わからん」

「…………」

「決めるまでに何週間かは猶予がある。よく考え、よく相談して決めろ」

 分かれ道、というやつだ。これは。

 しかも、いつまでも待ってくれない期限付き。

 どうしよう。

 どうすれば。


「でもおまえ、結構年上ウケするから、都内に行ったら他事務所の女性アイドルにモテモテになりそうだよな」

「……………………いや、そんな、まっさかー」

「すごい揺らいでるな、おい」

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