その094「疎遠」

 十一月半ば、冬の近くなったある日。

「あっちゃんあっちゃん」

 今日も今日とて、トモさんが私のことを呼んでくる。

「……トモさん、物思いで散歩に行くのも億劫なわんこみたいになってるわよ」

「そう見える?」

「わりと前からね」

「そっか……うん、弟くんのこと、考えてたんだ」

 予想通りと言えば、予想通りだった。

 最近、トモさんとはよくよくこの話になる。

「結構人気出てきたみたいじゃない? テレビにもちょくちょく出てるし」

「そうね。右肩上がりって言ってたわ。ファンレターも貰ってて、すごく嬉しそうだった」

 先日のライブから、トモさん、すっかりあの子にハマってしまったようだ。元々お気に入りっていうのもあったけど。

「……ただ、あたし最近、弟くんと直で会ってないんだよなぁ」

「ん、本格的なデビューはまだだから、放課後から夜までずっとレッスンしてるわ。休日も含めて」

「そっか……なんだか弟くん、どんどん遠くに行っちゃってるような気がするなぁ」

「多くの人を笑顔にしたいって言ってたからね。あの子の欲望は、つまりそういうことなのかも」

「うん、それはわかってるんだけど――」

 トモさんは、少し遠くを見据えながら、


「そのためか、弟くんの友達とも、最近会わなくなっちゃったし」


「…………」

 何となく、わかっていたことだった。

 そう。

 あの子が、遠くに行っちゃうと共に。


 大勢の個性的な仲間達の輪の中にいた、あの楽しかった日々と繋がりが――どんどん、薄れていってしまうようで。


 でも。

「私は」

「?」

「私は……それでも、頑張るから」

「あっちゃん」

「あの子のお姉ちゃんとして、あの子に負けないくらい、私の出来ることをやるだけだから」

 多くの人を笑顔にするために、お互いに頑張る。

 あの子と、交わした約束がある。

 その想いを胸に、私は今、生きている。

「でもやっぱり、あたし、弟くんに会いたいなぁ」

「…………」

 トモさんは、相変わらず遠い目で呟いてる。

 そこまで、あの子のことを……。


「そんで、この三ヶ月お預けだった弟くんのモフモフを、一気に補給したいなぁ……こう、思う存分、隅から隅まで……ふ、ふふふ」

「と、トモさん、それスキャンダルになるやつよ!?」

「姉と名乗れば大丈夫! もしくは、キミからその座を奪い取る!」

「奪わないで!?」


 ……今度あの子をトモさんに会わせるとき、十分に注意を促しておこう。

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