その093「すれ違い」
「姉ちゃん姉ちゃん……お?」
事務所のレッスンから帰ってきて、今日も今日とて、僕は姉ちゃんのことを呼ぼうとしたんだけど。
姉ちゃん、部屋にいないみたいだぞ。
時刻は午後七時。今日はバイトがない曜日のはずだから、いつもなら帰ってきてるはずなんだけど……。
「ただいまー」
と思っていたところ、姉ちゃん、帰ってきたみたいだぞ。一安心。
「おかえり姉ちゃん」
「あら、主人の帰りを玄関先でソワソワしながら待ってたわんこのようなお出迎えね」
「遅かったな姉ちゃん、今日ってバイトなかったんじゃ」
「部活よ、部活」
「? 姉ちゃん、部活は入ってなかったはずだぞ」
「先週入ったのよ。
「神様の?」
そういえば、姉ちゃんの学校で部活を立ち上げて、そこの部長をしていると言っていたような。
「校内奉仕――つまり、人に役立つお仕事が主な活動内容ね」
「いわば、正義の味方というやつかっ。カッコいいな!」
「それ、何か違うような……」
「正義の味方だから、変身とかするのか?」
「しないわよ」
姉ちゃんは苦笑しつつ、
「私、思ったの。あなたとは違う形だけど、私も誰かを笑顔に出来るように頑張りたいって」
「そっか」
とっても張り切ってる姉ちゃんに、僕は――
「――じゃあ、これまでみたいに、姉ちゃんと遊べる機会とか少なくなっちゃうのかな」
つい、思ったことが口に出た。
「――――」
姉ちゃん、虚を突かれたように目を丸くしたけど。
すぐに、笑顔に戻って、
「仕方ないかも知れないわね。休日も活動あるし、バイトもあるしね。でも、忙しいのはお互い様でしょ」
「ううむ、そうだなー。今から年末にかけてお仕事が入ってくるって、プロデューサーが言ってたし」
「まあ、どこかで時間取れるでしょ。その時までは、お互いに自分の出来ることを頑張りましょ」
「おうっ」
と、威勢良く返事したものの。
何故か、僕の中で、ぐるぐると渦巻く何かが生まれたような気がした。
姉ちゃんも今、そんな気持ちなのだろうか……。
「あ、そうだ。もし今度遊びに行くとき、よかったら同期の子も呼んでね?」
「え、姉ちゃん、デルタ☆アクセル一筋じゃなかったの」
「いや、その……最近、あなたの活動見てると、どんどんどんどん推しが増えちゃって」
「節操なくなってる!?」
どうやら、気のせいのようだったぞ。
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